スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第76話 ブーストの反動


 蜘蛛に対して炎熱剣で解放したトウマの抗魔玉の力はブースト3倍だった。
 それは真魔玉【赤】との相乗効果により3×2の6倍の攻撃力を意味した。この時、トウマはスレーム・ガングのメンバー内最大火力を叩き出したのだ。勿論、抗魔玉の力を使った対モンスターへの最大火力という意味だ。使用した武器、熟練度や身体能力の差は加味していない。

 バンはブースト5倍まで出せるが真魔玉を使ったロッドは特殊効果のみのため相乗効果はない。ロッカはブースト4倍まで出せるが真魔玉は使っていない。
 仮にバンがトウマの炎熱剣でブースト5倍を出せば10倍の攻撃力となるはずだ。ロッカも同様で8倍になる。
 能力の違う武器で比較するものではないがトウマの炎熱剣で使ったブースト3倍は現状のロッカやバンの最大火力に匹敵する力だということは間違いないだろう。

 ロッカとイズハが先に橋の上に引き上げられ、最後にトウマが引き上げられて全員無事だった。『巨大蜘蛛討伐』成功だ!
 蜘蛛の魔石は谷底に落ちて行ったので回収できなかった。

「俺、さっきので何か掴んだ気がします。
 今回はどうやったかハッキリ覚えているし」

 ロッカが言う。

「忘れないうちにもう一度やってみせて。
 今度は炎熱剣じゃなくて通常で構わないわ」

 蜘蛛との戦いでトウマの剣の抗魔玉の力は約5分、真魔玉の力は3回分消費したが橋の上に戻るまでに時間を要したのでフル状態に回復している。

「じゃ、いきますよ」

 トウマは剣を鞘から抜いて一息ついて集中した。周りにいる皆が息をのんでそれを見つめている。

 うっ、皆にじっと見つめられてると集中できない・・・。

 トウマは目をつぶって集中し直した。

 周りの音が聞こえなくなるまで集中するんだ。

 トウマは剣を上段に構えた。

 蜘蛛が直ぐそこにいると思え、あの時の状況をイメージするんだ。
 集中、集中・・・。

 少し経つとトウマはにわかに汗ばみ出した。すると剣の刀身の白い輝きが僅かに膨らみ揺れ出す。

 蜘蛛を一刀両断にするんだ!

 トウマは剣を勢いよく振り下ろした。トウマが目を開けると剣の白い輝きが炎のように揺らめいていた。

「できた!」
「「おー」」

 ロッカは真剣な表情でバン見やるとバンも同様で互いに頷いた。二人にしか分からない意思疎通があったようだ。

 トウマが見せたのはブースト2倍だったが直ぐにブーストは解けた。

「あれ? 解けた」

「集中切らしたからよ。確かに解放できてたわ。今のはブースト2倍ってところね」

 セキトモが言う。

「トウマ、凄いじゃないか。ついに意識して出せるようになったな!」

「はい! やっとできるようになりましたよ~」

「でも、発動までに時間かかり過ぎ。
 目つぶってたし、剣振り下ろしてたし、まだ実戦では使えないわね」

「うっ、それは、こ、これからですよ。コツは掴んだし」

 そこまで言うことないじゃん。

「うふっ。そうですね。
 トウマさんが自在に出せるようになるのを楽しみにしておきましょう」

 一同は設置したロープを回収して待たせている馬次郎のところに戻った。一応、立ててある看板に済のマークとパーティー名を書き込み討伐が終わっていることを示しておく。

 トウマは興奮が落ち着いた途端に急に頭がぼーとして身体が重く感じてきた。

「あれっ、なんかめっちゃ疲れてる感じがしてきた・・・」

「やっぱり反動きたかー。短い時間で2回使ってるし、普通はそうなるよね?
 ブーストの練習は万全なときにやって慣れていったほうがいいわよ」

「これがブーストの反動かぁ、大して動いてないのにこんなに疲れるのか。
 今ならロッカがあまり使わないのが分かる」

 セキトモとイズハが顔を見合わせた。

「ブースト使えるのうらやましいけど、一長一短みたいだな?」
「そうっすね。使えてもその後が大変そうっす」

 一同は峡谷の橋を渡り街道を下って狩場の山近くにあるオドブレイクを目指した。

「この調子で進めば暗くなる前に余裕でオドブレイクに着きそうね」

「狩場の山ってそのオドブレイクの近くにあるんですよね?
 どんな所か知ってるんですか?」

「私たちも行ったことがないので詳しくは分かりませんけど、狩場の山は何故だかモンスターが多いらしいのです。地形的に雨が降りやすいのかもしれませんね」

 峡谷の先は南東の海岸側が山々に塞がれていて、狩場の山はその手前に広がる平地の中央付近にポツンとある比較的なだらかな高さ100mくらいの小さな円錐台の山である。頂上に向かうほど傾斜はきつくなっていくようだ。

 しばらく経つと目的のオドブレイクに到着した。そこは普通のオドブレイクの2倍以上ある広さで2mくらいの高さのブロック塀で囲まれていた。吹き抜けだが敷地の両端には雨水が外に出るように傾斜をつけた木造の屋根が設置してある。壁の外側にはオドブレイクに隣接するように衛兵用の宿舎も建てられているようだ。
 討伐者が多くいるようで少し中が騒がしい。

 皆が馬車から降りて中に入ろうとすると、入口の衛兵が声をかけてきた。

「馬車はあっちに止めてくれ。テントは端の屋根があるところにも設置していいが岩の上に予約札が置いてある所の周囲10m以内には設置禁止な。
 場所を予約したいなら一日銀貨1枚。千エーペルで予約できるぞ。
 あと、人通りが多い中央付近にテントは設置しないでくれ」

「分かりました。有難うございます」

「ここを拠点として長居する討伐者も多いからな、設備もそれなりにあるぞ。
 まあ、いちいち説明するわけにもいかないから自分たちの目で確かめてくれ」

 一同はオドブレイク内に入った。中央は石畳の道になっていて奥の倉庫まで真っすぐに続いている。道の両脇には排水用の細い溝まで作ってあるようだ。
 テントを張れる広場には20~30mおきくらいに平たい岩や丸太が置いてあり、討伐者が座っていたり物を置いていたりしている。敷地内の奥のほうには建物が3つあるようだ。

「なんだここ? ちょっとした集落ですね。
 露店開いている業者もいるし。売ってるのはポーションとか道具関連かな?」

「早速、見て回りたい衝動が・・・」
「僕らは先に野営する準備だよ。いきなりどっか行くのなしだからな、イズハ」
「わ、分かったっす」

 馬次郎を指定されたところに連れて行った。屋根がある場所に多くの馬車がとまっていて衛兵が巡回しているようだ。

 巡回している衛兵が声をかけてきた。

「馬車はそこに止めてくれ。
 専属がいるから費用を払えば預かるだけでなくここを出るまでの面倒も見るぞ」

「じゃあ、あとでお願いしに来るかも」

「分かった。そのときはこの辺にいる衛兵に声をかけてくれ。
 まあ、2日経っても戻って来なかったら死んだと判断されて預けてあるやつは全部売り飛ばされるから気をつけろよ」

 一同はテントを設置するために奥の倉庫に向かった。

「これだけ人が多いと貸し出し用のテント残ってるか心配だな」

 倉庫へ着くとテントも食料も十分に用意してあることが分かり安心した。衛兵に聞いたところ倉庫の右にある建物は小ギルドで最低限の武器防具も揃えてあるらしい。左にある建物は男女別にしてあるトイレとシャワー室とのことだった。井戸があるので水がふんだんに使えるようだ。

「ここ暮らせますね~」

「シャワーがあるなんて助かるわ~。
 手拭いで身体拭くのも面倒だし、髪が洗えるわね?」

「ギルドもあるって言ってましたね?」

「すぐに報酬が受け取れるように狩場の山専用で作った感じかもしれません」

「周りに建物が増えればここ村や町に発展しそうじゃないですか?」

「それはないんじゃない?
 危険な狩場の山が近くにあるし、それ目的で討伐者が多いってだけよ」

 テントを張る場所を確保したらいつものように作業分担だ。トウマとセキトモ、イズハでテント設置の準備を開始した。すると、ロッカとバンがやっぱり大量の食料を買って来た。

「ついでにシャワー室見て来たけど凄いわよ。
 皮むいた魔石を燃料として入れると温水になる設備だったわ。
 温度も自分でダイアル回して調整できるみたい」

「マジ?!」

「1個で長く使えるみたいだし、魔石切れのタイミングじゃなかったらタダで温水使えるわよ」

「魔石投入は高いかなと一瞬思ったけど、それならいいね。
 他の人が入れた後に使うのは何かセコイ感じするけど。
 燃料切れのタイミングに当たったらそういう巡り合わせってことだな」

「セキトモさん費用とかよく気にしますよね?
 魔石なんてスライム倒せばすぐ手に入りますよ」

「節約して生活してたから気になるんだよ。
 些細なことだけど気にしてないトウマのほうがおかしいぞ」

 イズハも頷いた。

「そうなの? でも高いか安いかくらいは俺だって」

「バルンでは高い宿に泊まってたのに気にしてなかったろ?」

「うっ、それを言われると・・・このままではマズいとは思ってましたよ」

「まあ、人それぞれだな。わはは」




※この内容は個人小説でありフィクションです。