スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第77話 魔石換金二割増し 


 狩場の山近くのオドブレイクに到着したスレーム・ガングの5人はテントを設置しているところだ。右端の屋根が設置してある位置の中央辺りでいい場所だ。しかし、馬車の厩舎が右側にあるからなのか人は少なめだ。

「この辺だと全然匂わないんですけどね?」
「おかげで広々と屋根のある場所を確保できて快適だよ。
 まあ、昼間は日が差し込むだろうから暑いかもしれないけどね」

 いつもの三人で壁側にロッカとバンのテント。あとは平たい岩を中心に活動スペースをとり、囲むようにテントを張っていった。

 テントを張り終えるとイズハはいつの間にかいなくなっていた。

「イズハのやつ、絶対またウロウロしてるよ。まったく~」

「はは。戻ってきたら今度はイズハが留守番だな。
 ここに誰かは残っていないとマズいだろう」

「そうですね。イズハが戻ったら俺たちは小ギルドを見に行きましょう」

 指示だけしていたロッカとバンは持って来た食料と水を適当な場所に置いた。

「それじゃ、私たちは先に見に行って来るからとりあえず二人が留守番ね」

「えー」

「討伐したクエスト報酬も受け取れるようでしたら貰ってきますね」

「あ、そうか。道中だったし、もしかしたら受け取れるかもですね」

 ロッカとバンの二人は先に小ギルドに向かった。

◇◇

 一息ついたトウマは辺りを見渡した。

「人多いし、ここでは模擬戦や鍛錬はできそうにないですよね?」
「そうだな。さすがに人目が多すぎるよな。
 できるとしたら筋力強化の地味な鍛錬くらいだ」

「ブーストの練習も無理か~。いや、テントの中だったら見えないし、いけるかも」
「座った状態で出来るもんなの?」
「試してみるだけですよ。出来るかどうかは別ですね」

「トウマ、何か教えられそうなコツがあったら僕にも教えてくれないか?」

「えーとですね。
 俺の場合は周りの音が聞こえなくなるくらいとにかく集中ですね。
 そこからは蜘蛛と戦ったイメージなんで共有できないですけど」

「なるほど、そういう領域なのか。そう言われればトウマもバンもたまに考え事してるとき周りの話を聞いてないよな。ロッカは分からないけど。あれって聞いてないんじゃなくてホントに聞こえてなかったりするのかな?」
「そんなときありますっけ? 自覚ないですけど」
「あるって。僕も今夜瞑想でもしてみようかな」

 二人がしばらく留守番しているとイズハが戻って来た。

「申し訳ないっす・・・」

「それが性分なんだろ?」
「わはは。トウマに言われたな」

「イズハは罰として今からここの留守番決定だからな。
 俺たちは小ギルド見に行って来るから。
 ロッカとバンは先に見に行ったよ」

「そうなんすね。入れ違いだったっすかね?
 自分もう見て来たので大丈夫っす。
 小ギルドは建物の半分くらいなので狭いっすよ」

「とりあえず僕らも見てくるよ。イズハ、留守番頼むな」
「了解っす」

 トウマとセキトモは小ギルドに向かった。

◇◇

 小ギルドの中は左側が武器・防具が置いてあるエリア。右側がギルドの役割をしているようだ。中央には丸いテーブルが3つ置いてある。今は小ギルドに来ている討伐者の数は少ない。
 武器・防具は最低限の物。量産品の剣、短剣、槍、弓、盾、籠手などが置いてあるが重ね置きできるものばかり。他は棚の上に量産品のヘルムが数点あるくらいだ。

「目新しいものは何も置いてないようだな。
 破損した場合の一時的な代用品ってところだろう」

 二人はロッカとバンがカウンターにいるのを見つけたので合流した。

【巨大蜘蛛討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 40万エーペル

【巨大クワガタ討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 35万エーペル

【爪猫5体討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 10万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小 24個 12万エーペル

 合計 97万エーペル。

 魔石は全てを換金したわけではなく道具の燃料用に少し手元に残すことにしたようだ。爪キジと角ヤギは都市の管轄でここでは報酬を受け取れなかった。分け前は一人19万エーペルずつで残りはパーティー管理費に回す。

「久しぶりの収入ですね」
「この小ギルドではお金の出し入れができないみたいなのよ。
 手持ちが増えて助かったわ」

「元々ここはオドブレイクですからね。そこまではしないのでしょう」

「それより掲示板見た? 何なのここ。
 道中や周辺のクエストは貼ってあるけど、狩場の山にクエストはないの?
 モンスターいっぱいいるって聞いて来たのに」
「え? クエストないんですか?」

 カウンターのおっさんが話しかけてきた。

「何だいお前ら知らずに来たのか?
 狩場の山はモンスターが多過ぎてクエストとして出せないんだ」
「マジ? それだと全然稼げないじゃん」
「まあ待て。それで狩場の山に来る討伐者が多いのは何故だと思う?」

「うーん。それは・・・修行?」
「トウマ、バカなの?」

「ははは。ここでは魔石を2割増しで買い取ってるんだよ。
 それに素材を落とすモンスターが多いんだ」

 バンは不思議に思った。

「でも、私たちがさっき換金した魔石は普通の買い取り価格でしたよ」

「狩場の山のモンスターは魔石・小でも不純物が混じった魔石を落とすんだよ。
 それで判別しているんだ。
 こっちも商売だからな。普通の魔石を常時2割増しでは買い取らんさ」

「なるほど」

「あ、それから注意書きにもあるが、狩場の山で死んだ討伐者や敗走した討伐者が戦った場所に時々中型の猿のモンスターが現れる。その猿たちは討伐しないようにしろよ。ユニコーンの使いって話らしいから下手に刺激しないでくれ。縄張りを持っているとはいえ山頂にいるユニコーンが麓に降りて来たらどうしようもないからな。
 『猿には手を出すな』がここの作法ってやつだ」

「分かりました」
「やっぱいるんだ。ユニコーン」

「まあ、このオドブレイクは防衛ラインって感じだな。ユニコーンに挑む討伐者は滅多に来ないが、それでも多くの討伐者が来てくれてるから湧いてくるモンスターの拡散だけは防げている。都市周辺のクエストだけでは不足してるやつらが一時的に稼ぎに来てるって感じだがな」

 小ギルドは18時には閉まり、朝は8時から開くそうだ。トウマたちはカウンターのおっさんにお礼を言いテントに戻った。

◇◇

 辺りが暗くなってくると至る所で討伐者が薪に火を着け出したので真っ暗にはなっていない。魔石ランタンを持っている討伐者もチラホラいるようだ。
 薪はオドブレイクで購入できるが壁と屋根で煙が充満するかもしれない。なるべく魔石コンロと魔石ランタンを活用しようということになった。

 なんと、スレーム・ガングには魔石ランタンが3つもあるのだ。バンとロッカが買って来ていた。魔石ランタンは中央にある平たい岩の上に1つ置いて常時点けておき、他の2つは誰かが移動する際に使うようにする。

 セキトモはうんうんと頷いた。

「いい買い物だったな」
「パーティー管理費で買ったから皆の所有物だけどさ。
 買って来たの私たちだからね」
「そうだね。ありがとう」

◇◇

 夕食を終えると作戦会議が始まった。明日から挑む狩場の山をどう攻めるかという話だ。
 バンは地面に棒で山の形状を書きながら話した。

「まずは正規ルートで山の中腹まで登りましょう。
 そこからはルートを外れて周辺のモンスターを討伐していきます」

 正規ルートは迂回しながらもなだらかな傾斜で山頂に到達できるらしい。山の中腹までは歩きで1時間かからないだろうという話だ。もしユニコーンに挑むならそのまま進めばいい。

「別にユニコーンに挑むわけじゃないからね。
 ある程度進んで討伐者が少なくなった場所でモンスターを討伐するって話よ」

「しかし、ユニコーンってどんなモンスターなんだろうな?
 名前からして角が生えた馬なんだろうけど。
 今のところそこまで脅威には思えないんだが・・・」

「難易度Aなんだから何か理由があるはずよ。
 何も知らずに行ったら間違いなく死ぬわ」

「遠くから見るだけだったら行けるっすかね?」
「俺、見てみたいけどな~」
「また、言ってる~。行かないぞ」

 どうするか一通り決め、あとは各々自由な時間を過ごした。

 明日からは狩場の山への挑戦開始だ。




※この内容は個人小説でありフィクションです。