スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第77話 魔石は二割増し?


 狩場の山近くのオドブレイクに来ているスレーム・ガングの一同はテントを設置しているところだ。場所はオドブレイク入口から右側中央の屋根がある壁ぎわ辺り。馬車を停めている厩舎が右側にあるので匂いを気にしてか左側より右側のほうが人が少ない。

「この辺だと全然匂わないんですけどね?」
「多分、思い込んでて確認までしてないんだろうな。
 おかげで広々と屋根のある場所が確保できて快適だよ。
 まあ、昼間は日が差し込むだろうから暑いかもしれないけどね」

 壁側にロッカとバンのテント。あとは平たい岩を中心に活動スペースをとり、囲むようにテントを張っていく。テントを張り終えるとイズハはいつの間にかいなくなっていた。

「イズハのやつ、絶対ウロウロしてるよ。まったく~」

「はは。戻ってきたら今度はイズハが留守番だな。
 ここに誰か残っていないとマズいだろう」

「そうですね。イズハが戻ったら俺たちは小ギルド見に行きましょう」

 ロッカが言う。

「んじゃ、私たちは先に見に行って来るからとりあえず二人が留守番ね」

「えー」

「討伐したクエスト報酬も受け取れるようだったら貰ってくるわ」

「あ、そうか。道中だったし、もしかしたら受け取れるかもですね」

 ロッカとバンは先に小ギルドを見に行った。

 一息ついたトウマは辺りを見渡した。

「人多いし、ここでは模擬戦とかできそうにないですね?」
「そうだな。さすがに人目が多すぎるな」
「ブーストの練習も無理か~。いや、テントの中だったら見えないし、いけるか」
「座った状態で出来るもんなの?」
「試してみるだけですよ。出来るかどうかは別ですね」

「トウマ、抗魔玉の力を解放するのに何か教えられそうなコツがあったら僕にも教えてくれないか?」

「えーとですね。
 俺の場合は周りの音が聞こえなくなるくらいとにかく集中ですね。
 そこからは蜘蛛と戦ったイメージなんで共有できないですけど」

「なるほど、そういう領域なのか。そう言われればトウマもバンもたまに考え事してると話を聞いてないときあるな。ロッカは分からないけど。あれって聞いてないんじゃなくてホントに聞こえてなかったりするのかな?」
「そんなときありますっけ? 自覚ないですけど」
「あるって。僕も今夜瞑想でもしてみようかな」

 イズハが戻って来た。

「申し訳ないっす・・・」

「それが性分なんだろ?」
「わはは。トウマに言われたな」

「イズハは罰としてここの留守番決定だからな。
 俺たちは小ギルド見に行って来るから。ロッカとバンは先に見に行ったよ」

「そうなんすね。入れ違いだったかな?
 自分もう見て来たんで大丈夫っす。建物の半分くらいなので狭いっすよ」

「とりあえず僕らも見てくるよ。イズハ、留守番頼むな」
「了解っす」

 トウマとセキトモは小ギルドを見に行った。
 中は左側が武器・防具が置いてあるエリア、右側がギルドの役割をしているようだ。中央には丸いテーブルが3つ置いてある。今は小ギルド内に入っている討伐者の数は少ないようだ。
 武器・防具は最低限の物。1スロットタイプの量産品の剣、短剣、槍、弓、盾、籠手などが置いてあるが重ね置きできるものばかりである。他は棚の上に量産品のヘルムが数点あるくらいだろうか。

「目新しいものは何も置いてないようだね。
 破損した場合の一時的な代用品ってところだろうな」

 二人はロッカとバンがカウンターでクエストの成果報告をしているところを見つけたので合流した。

【巨大蜘蛛討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 40万エーペル

【巨大クワガタ討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 35万エーペル

【爪猫5体討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 10万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小 24個 12万エーペル

 合計 97万エーペル。
 魔石は全部換金ではなく道具の燃料用に少し手元に残してある。爪キジと角ヤギは都市の管轄でここでは報酬を受け取れなかったようだ。分け前は一人19万エーペルずつで残りはパーティー管理費へと回した。

「久しぶりの収入ですね」
「この小ギルドではお金の預け入れや引き出しができないみたいなのよ。
 手持ちが増えて助かったわ」

「元々ここはオドブレイクですからね。そこまでは出来ないのでしょう」

「それより何なのここ。
 道中のクエストは貼ってあるけど、狩場の山にクエストないの?
 モンスターいっぱいいるって聞いてきたのに」
「え? クエストないんですか?」

 カウンターのおっさんが話しかけてきた。

「何だいお前ら知らずに来たのか?
 狩場の山はモンスターが多過ぎてクエストとして出せないんだ」
「マジ?」
「まあ待て。それで狩場の山へ来る討伐者が多いのは何故だと思う?」

「うーん。それは・・・修行?」
「トウマ、バカなの?」

「ははは。ここでは魔石を2割増しで買い取ってるんだよ。
 それに素材を落とすモンスターが多いんだ」

 バンが聞いた。

「でも、私たちがさっき換金した魔石は普通の買い取り価格でしたよ」

「狩場の山のモンスターは魔石・小でも不純物が混じった魔石を落とすんだよ。
 それで判断しているんだ。
 こっちも商売だからな、普通の魔石を常時2割増しでは買い取らんさ」

「なるほど」

「あ、それから注意書きにもあるが、狩場の山でモンスターと戦って死んだ討伐者や敗走した討伐者が戦った場所に時々中型くらいの猿のモンスターが現れる。その猿たちは討伐しないようにしろよ。ユニコーンの使いって話らしいから下手に刺激しないでくれ。山頂にいるユニコーンが麓に降りてきたらどうしようもないからな。猿には手を出すな、がここの作法ってやつだ」

「分かりました」
「やっぱいるんだ。ユニコーン」

「まあ、このオドブレイクは防衛ラインって感じだな。ユニコーンに挑む討伐者は滅多に来ないが、それでも多くの討伐者が来てくれてるから湧いてくるモンスターの進行だけは防げている。都市周辺のクエストだけでは儲けられないやつらが一時的に稼ぎに来てる感じだがな」

 小ギルドは18時には閉めるそうだ。朝は8時から開く。トウマたちはカウンターのおっさんにお礼を言いテントに戻った。

 辺りが暗くなってきたが至る所で討伐者が薪に火を着けたので真っ暗ではない。魔石ランタンを持っている討伐者もチラホラいるようだ。
 薪の購入はできるが壁と屋根で煙が充満するかもしれないのでなるべく魔石コンロと魔石ランタンを活用しようということになった。
 なんと、スレーム・ガングには魔石ランタンが3つもあるのだ。バンとロッカが買って来ていた。
 魔石ランタンは中央の平たい岩の上に1つ置いて常時点けておき、他の2つは誰かが移動する際に使うようにする。

 セキトモがうんうんと頷きながら言う。

「いい買い物だったな」
「パーティー管理費で買ったから皆の所有物だけど、買って来たの私たちだからね」
「そうだね。ありがとう」

 夕食を終えるとちょっとした作戦会議だ。狩場の山をどう攻めるかという話。
 地面に棒で山の形状を書きながらバンが話す。

「まずは正規ルートで山の中腹まで登りましょう。
 そこからはルートから外れて周辺のモンスターを討伐していきます」

 正規ルートは迂回しながらもなだらかな傾斜で山頂に到達できるらしい。山の中腹までは歩きで1時間かからないだろうという話だ。もしユニコーンに挑むならそのまま進めばいい。

「別にユニコーンに挑むわけじゃないからね。
 ある程度進んで討伐者が少なくなった場所でモンスター討伐するって話よ」

「しかし、ユニコーンってどんなモンスターなんだろうな?
 名前からして角が生えた馬なんだろうけど。
 今のところそこまで脅威には思えないんだが・・・」

「難易度Aなんだから何か理由があるはずよ。
 何も知らずに行ったら間違いなく死ぬわ」

「遠くから見るだけだったら行けるっすかね?」
「俺、見てみたいけどな~」
「また、言ってる~。行かないぞ」

 明日どうするか一通り決めてあとは各々自由な時間を過ごしてこの日は就寝した。




※この内容は個人小説でありフィクションです。