スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第78話 初日の成果


翌日-----。

 スレーム・ガングの5人は狩場の山に歩いて向かっている。徒歩20分程度で山の麓に着くので馬次郎は預けてきた。
 オドブレイクで設置したテントは毎回片付けるのは面倒なので同じ場所を予約してそのままにして来ている。貴重品は衛兵が巡回している馬車の荷台にしまうか持って来ているといった感じだ。

 バンは大剣、三刃爪、ロッド3本を持って来ている。問題の大剣は人力で運べる二輪台車に乗せてある。二輪台車は朝からバンが馬車の荷台から取り出してきて組み立てたもので、身体の小さいロッカやバンが中で寝れるくらいの大きさだ。

 二輪台車の本体は大き目の長板4枚が金具で繋がって出来ている。4枚のうち中の2枚が底面、外の2枚が左右の側面となる折り畳み式で、細目の板を前後の上下につけた箱といったところだろうか。底面裏の前、中央、後ろに支えとして細めの板も止めてあり、重量物でも載せられる。後方には台車が地面から20cmくらいの高さになる独立した小さな車輪が2つ。前方には屈曲していて高さを調整できる取っ手が付いている。車輪の大きい二輪台車は運搬用で普及しているがその小型版といったところだ。博士が片手間で作ったバラシて折り畳み可能な台車らしく倉庫に眠っていたそうだ。
 ちなみに組み立て工具は不要で一人でも数分、二人で急いでやれば1分以内で組み立てられるお手軽さ。車輪の軸や金具以外は全部モンスター素材作られており台車自体はもの凄く軽い。車輪までモンスター素材で作られていて荒い道を練り歩いてもそうそう壊れる物ではないようだ。
 二輪台車に携行食や道具の入った背負い袋などを乗せて今はバンが引いている。大剣は箱に収まりきれないのでロープで鞘のみ固定して載せてあるので二輪台車が大剣の鞘になっているとも言えそうだ。

 二輪台車をゴロゴロと片手で引っ張りながらバンは言う。

「これあると荷物運びに便利ですね。持って来て良かったです」
「車輪付きで荷物引っ張って行けるのは楽そうだな。交替しながら行こうか?」
「なんか色々出てくるなぁ~」

 少し歩くと『狩場の山』の立て札があった。

「モンスターに注意ですって。ここが山の麓? まだ全然傾斜してないですよね?」
「最初は分からないくらい緩やかなんだろう。
 でも立て札あるし、この辺から狩場の山のモンスターが出るってことか?」

「大丈夫だと思うけど、ここからは気を引き締めていくわよ」

 予定通り正規ルートを進んで行く。正規ルートは通る人が多いのか道のようになっていて邪魔になる木や茂みが伐採してあるようだ。先人たちがやったのだろう。
 しばらく進むと正規ルートを外れたあちこちでモンスターと戦っている討伐者たちがいた。この辺は不純物が混ざっていない魔石を落とすモンスターもいるようで「ハズレだ~」という声もちょくちょく聞こえてくる。

 出現しているモンスターは小型~中型のゴム兎、木の上にいるゴムリス、牙蟻、爪鼠、牙蛇など。ゴムリスは小型しかいないが木の上から木の実を投げてくるうっとうしいやつだ。取れる素材はゴム兎の耳、ゴムリスの尻尾、爪鼠の尻尾、牙蛇の尻尾側といったところだろう。小型ばかりなので狙えるか分からないが、牙や爪が特化したやつなら運が良ければ素材が手に入るかもしれない。

 さらに進むと道を外れた位置に立て札があったのでトウマとイズハの二人で立て札を見に行った。

《穴↓モンスター出現に注意》

 立て札の下側にあるのは人の頭くらいの小さな横穴だ。

 ここからモンスターが出てくるってこと?

 二人は少し様子見で待ってみたがモンスターは出てこなかった。
 イズハは警戒しながら横穴に手をかざしてみた。

「風が吹いてるっす。この穴どこかに繋がってるのかも?」

 早く戻ってこいと呼ばれたので二人は皆の元に戻って合流した。
 先に進むと山の中腹に近づくに連れて見かける討伐者の数が減っていった。

「そろそろ私たちもモンスター見つけられそうじゃない?
 こっからは見つけて倒していこう」
「やっとか、先行してる人たちに先越されてばっかでしたからね」

 助けを求められたり死にそうな場合は別だが、先に戦っている討伐者のモンスターに手を出してはいけないのが暗黙のルールだ。

「あそこのひらけた場所にある岩付近を一時拠点にしましょうか?」

 道を外れて二輪台車を岩の近くに置き、周辺のモンスターを討伐していくことになった。荷物の番を兼ねて最低一人は拠点が見える位置にいるようにする。

 最初にモンスターを見つけたのはロッカで小型の爪狸だった。ロッカは大き目のふっくらした尻尾を斬った後、とどめをさした。

「ホントに素材残ったわ。このしっぽ再現度高いわね、ふわふわしてるし」

「俺、爪狸とは初めて戦うな~。
 爪狸はしっぽ狙いなんですね。よーし、俺もやるぞ!」

 トウマが見つけたのは小型のゴム兎だった。

「またお前かー! だけど今回は耳を取らせて貰うぞ」

 トウマはゴム兎を倒してしまわないように耳だけを狙って両耳を落とした後にとどめをさした。

「おー、2つとも残ったー!」

 トウマがゴム兎の落とした魔石・小を拾って見ると少しだが緑の不純物が混じっていた。素材を手に入れたら一旦、二輪台車に戻り、素材を置いてからまた周辺のモンスターを探しに行くといった感じだ。
 バンは大剣を使っているが部位を狙おうとしても勢いが強すぎて一撃で倒してしまい、部位が取れないと頭を抱えていた。大剣は鞘から抜きっぱなしなので3つの抗魔玉を使い回しているようだ。

 それから少しずつ捜索範囲を広げてモンスター討伐を繰り返した。周辺にいたモンスターは小型~中型までのゴム兎、爪狸、糸蜘蛛、牙百足、牙蛇といったところだ。複数体同時に出現することはほぼなく、抗魔玉の力を回復させながらなので一人十数体倒せれば上出来だろう。

 初日の成果はこうだ。

 魔石・小 62個
 ゴム兎の耳 6本
 爪狸の尻尾 8本
 牙蛇の尻尾側の皮 5枚
 糸蜘蛛の糸 人間の頭くらいの量(棒にぐるぐる巻きにしている)

「僕たちだけでも今日だけで62体討伐だぞ、ホントにモンスター多いな。
 どこからか湧いてきてる気がする。やっぱあの穴かな?」

「明日はもう少し先に進んでみようよ。この辺、手応えなさすぎ。
 モンスター同士でも争ってるし共闘って感じはしないわ」

 オドブレイクに戻っている最中に夕立がきて、少しの間だったが皆びしょ濡れになった。

「最悪だわ~。傘持って来れば良かったわね」
「この分だと明日もモンスター湧いてそうだな」

「確か小ギルドでは祭りやって無いんですよね?」

「さっきの夕立みたいに頻繁に雨が降るとしたらそりゃやらないよな。
 オドブレイクに屋根が設置してあるのも雨がよく降るからかも」

 小ギルドに寄って成果報告した。

【モンスター素材報酬】
 ゴム兎の耳 6本 3万6千エーペル
 爪狸の尻尾 8本 6万4千エーペル
 牙蛇の尻尾側の皮 5枚 5万エーペル
 糸蜘蛛の糸 1万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小(不純物あり) 62個 37万2千エーペル

 合計 53万2千エーペル。分け前は一人10万エーペルずつで残りはパーティー管理費に回す。

「一人10万って凄くないですか?」
「数だけは倒したもんな。討伐報酬無しでも結構稼げるもんだね」
「色々な戦い方も試せたっす。それでこの報酬は有難いっすよ」

「モンスターの数には困らないですけど、一日中討伐しているようなものなので効率的にはどうなのでしょう?」

「確かに。でも難易度Cのクエスト報酬相当と考えると命の危険が少ない分、割がいいような気もするよ」

「もっと大物の魔石とか部位の報酬が欲しいところね。明日は大物見つけよう!」




※この内容は個人小説でありフィクションです。