スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第79話 蜘蛛男?


俺たちは狩場の山の正規ルートに戻り、第7層へと向かった。
7層に着くと少し離れたところで他の討伐者パーティーが大型の牙蟻と戦っているのが見えた。
前衛の人が盾で蟻のカギ爪の攻撃を受け、何とか凌いでいるようだ。

「どうやら先を越されたようですね」
「残念~、俺の剣で蟻倒す気満々で来たのに。あ、でも蟻の動き少し違う?」
「単純な攻撃はしてこないみたいだな。あの人たち大丈夫だろうか?」
「4人いるから心配しないでも大丈夫でしょ。一応、聞いてみる?」

ロッカが蟻と戦っている討伐者に向けて大声で叫ぶ。

「おーい! 助けいる?」

後衛にいる剣を持った目立つ赤い装備をした男がこちらを振り向いた。
男は何故か分厚いグローブをはめている。

「要らねーよ! 大型くらいなら問題ねーから、俺たちの邪魔すんなよ!」

「分かったー」

ロッカがセキトモを見て言う。

「要らないってさ」
「みたいだね」

すると歓喜の声が聞こえた。
蟻と戦っていた討伐者たちが勝利したようだ。
さっきの声をかけた男の剣がメラメラと燃えている。

「あれって? 炎熱剣?」
「真魔玉【赤】をつけてるみたいね。
 力を制御しきれずに、刀身が火を噴いてるって感じ?
 あれじゃ、すぐに剣がダメになると思うわ。勿体ない使い方するわね」
「熱すぎてあのグローブをはめてないと持てないのでしょう」
「やっぱ、こっちには真魔玉持ってる人いるんですね」
「そりゃ、売ってあるんだからいるわ。普段は見せないように隠しているだけよ」

俺たちは先程の討伐者たちと逆方向に少し進んだ。

“ドドド・・・”

赤い眼をした大型の牙猪が突っ込んで来た!

「こちらに来ます! 避けて!」

バンの声と共に皆が牙猪の正面から散開する。
牙猪は勢いよく通り過ぎて蟻と戦っていた討伐者たちのほうに向かって行った。

“どーん!”

目立つ赤い装備をした討伐者が牙猪に吹き飛ばされた。
皆が呆然とそれを見ていた。

「うん、きっと大丈夫! 良さそうな装備してたし、見なかったことにしよう」
「ロッカ、それはどうかと・・・」
「大型くらいなら問題ないって言ったのはあいつらよ」

皆に合わせて後ろ向きで歩き出していたトウマが言う。

「お、あの人、起き上がったみたいですよ。生きてた」

しばらく進むと背後からバタバタと音が聞こえた。
その瞬間、セキトモの足に糸が絡みつき引っ張られ転ばされる。

「うおおおっ、なんだ?!」

蜘蛛の糸? いったいどこから?

皆が繋がった糸の先を見ると空中に蜘蛛が飛んでいた。
蝶の羽をつけた大型の蜘蛛だ。

「「複合体?!」」

すぐさまイズハがセキトモの足に繋がった糸を小太刀で斬り、引きずられていたセキトモを助けた。

「大丈夫っすか?」
「イズハ、助かったよ」

「生き物同士の複合体って俺、初めて見ましたよ」

「あんまりいないんだけどね。
 あんな高い位置で飛んでるなんて厄介ね。気を付けるのよ」

セキトモのロンググレイブでも届きそうにない。
空を飛ぶ蝶蜘蛛が連続で糸を飛ばしてきたが皆なんとかかわす。

「くっ、あの高さじゃ攻撃が届かないですよ」

どうする?
近くの木に登って戦うか?
いや無理だ。

バンがイズハを見て言う。

「イズハさん、羽を狙って当てられますか?」

イズハはすぐに理解した。
腰にある刺突剛糸本体の糸のロックを解除してクナイを構える。
繋がる糸の長さは最大25m。投擲なら蝶蜘蛛に十分届く。
狙いを定めたイズハのクナイによる投擲が見事に蝶蜘蛛の片方の羽を貫いた!
バランスを崩した蝶蜘蛛が地面に落ちる。

「凄いぞ! イズハ」

トウマは落ちた蝶蜘蛛へと真っ先に飛び込んだ。
トウマの抜き出した剣の薄白い輝きが炎のように揺らめいて、蝶蜘蛛の頭から胴体までを縦に真っ二つに斬り裂く。ブースト2倍だ!

蝶蜘蛛は霧散していく・・・。

「おっしゃー! 倒した!」

蝶蜘蛛が落とした魔石・中を拾い上げているトウマを見てロッカが言う。

「トウマ、今ブースト使ったわよね?」

「気づきました?
 昨日からずっとモンスター相手に試してたんですけど、やっとできましたよ!」

「ずっと?・・・もしかして蜘蛛限定とかじゃないわよね?」
「それって蜘蛛に対して異常に解放率高いってこと?
 はは。今のトウマは蜘蛛キラーかもな」
「確かに。
 今までトウマのブースト戦闘で4回見てるけど、鶏で1回、あとは全部蜘蛛ね。・・・蜘蛛男?」

「蜘蛛男って、俺が蜘蛛みたいじゃないですかー?」

バンがクスクス笑っている。
イズハは笑いを堪えながら投げたクナイを回収して伸びた糸を巻き取っている。

「ちょ、ちょっとみんな~! 蜘蛛はたまたまですって!」

蝶蜘蛛が飛ばした糸が地面に残っていたが、巻き取るのに手間がかかる割に買い取り価格が低かったので回収せずに放置した。

次に現れたモンスターは足が無数に(正確には14本)ある大型のダンゴムシだった。
ダンゴムシはこちらに気づくとぐるんと丸まり防御を固めて動かない。

「ねぇ、あいつどうする?」
「襲ってこないですね? デカい固まりだからビビったけど」
「決めつけてはいけませんよ。
 私たちが射程範囲に入っていないだけかもしれません」

少し近づくと丸まったダンゴムシがゆっくりと前後に揺れ出す。
次第に揺れの幅が大きくなっていく。

「・・・あれ、なんかヤバい気がしてきた」

丸まったダンゴムシの前後の揺れが激しくなり、ついに一回転。そのまま回転を速めて勢いを増しトウマの方向に転がってきた。

「うわっ! こっち来た!」

トウマは転がってくるダンゴムシをかわそうとしたが、避けた方向に曲がってきて吹き飛ばされた!

「トウマ! 大丈夫か?」

トウマはよろめきながらも立ち上がった。

「痛たた、大丈夫です。
 吹っ飛ばされて言うのもなんですけど、重さはそれほど感じませんでした。
 セキトモさんなら止められるかも」
「分かった。僕に任せてくれ!」

セキトモは再び転がって戻ってくるダンゴムシを大盾で受け止めた。
ダンゴムシはひっくり返り丸まった状態を解除。無数の足をワサワサと宙で動かして起きれない状態になった。

それを見たロッカが嫌そうな顔をして言う。

「こいつキモイ」

ダンゴムシを倒したのは私に任せて欲しいと名乗りをあげたバンだ。
それは倒すというより料理のようだった。

まずはダンゴムシの横から尾部を大剣で一刀両断。
ワサワサと動いている邪魔になる足もお構いなし。
次に頭から2節あたりのつなぎ目を一刀両断。
それでも倒せないようだったので頭部へ回り頭を一刀両断。

ダンゴムシが霧散していく・・・。

胸部から腹部にかけてアーチ状の背中の硬い表皮が5枚モンスター素材として残った。
おそらくバンはこれを狙っていたのだろうと皆が思う。
ダンゴムシは魔石・中を落とした。
どうやらこの山の大型モンスターは魔石・中を落とす可能性が高いようだ。

”コン、コン”

「この表皮結構堅いわね。軽いのに」
「装備の素材で使えそうだな」
「でも5枚も台車に乗る? 大き過ぎじゃない?」

なんとか5枚重ねてロープで台車にくくりつけた。

「バン、もうダンゴムシの素材狙うの禁止~!」
「・・・分かりました」

その後、スレーム・ガングは大型の牙犬、爪狐、角鹿を討伐してオドブレイクに戻った。

【モンスター素材報酬】
 ゴム兎の耳・中 2本 1万8千エーペル
 爪狸の尻尾・中 1本 1万1千エーペル
 牙蛇の尻尾側の皮・中 1枚 5万エーペル
 爪蜥蜴の爪・中 5本 10万エーペル
 爪蜥蜴の尻尾側の皮・中 2枚 12万エーペル
 爪狐の尻尾・中 2本 6万エーペル
 爪狐の尻尾・大 1本 25万エーペル
 角鹿の角・中 3本 9万エーペル
 角鹿の角・大 1本 10万エーペル
 ダンゴムシの表皮・大 5枚 150万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小(不純物あり) 24個 14万4千エーペル
 魔石・中(不純物あり) 5個 40万エーペル

合計 284万3千エーペル。

魔石・中は2割増し適用より高い価格であることが理由で他所と同じ不純物ありの買い取り価格だった。
分け前は一人50万エーペルずつにして残りはパーティー管理費へと回す。
討伐したモンスターは昨日より少なかったが、稼ぎは5倍。

「ダンゴムシの表皮が大きかったな。1枚30万とはね」

皆がまたダンゴムシ見つけたらバンにやって貰うのはありだなと思った。







※この内容は個人小説でありフィクションです。