スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第82話 思わぬ再開


博士が戻って来ていた。
親子の感動の再開には立ち会えなかったわけだが娘のメルちゃんがよそよそしいのは分かる。
奥さんのルミリアさんにくっついて離れない。誰?って感じで博士をチラチラ見ている。
一方で息子のアルシュは博士にまとわりついている。博士は困り顔だ。

天気もいいし、今日は裏庭で会食をすることになった。立食だ。
来客があって食堂に入りきれない人数になるらしい。
客人は俺たちも知ってる人たちだそうだ。誰だろ?

「トウマ君、誰が来るか気になるか?」
「それは気になりますよ。知ってる人って話だし」
「まあ、来てのお楽しみだな。っとそれよりバン君以外武器の評価報告が全く来なかったがどういう状況だ?
 確かに期限は設けていなかったがそろそろ使い慣れてきている頃だろう?」
「あ、忘れてました!」
「おい、おい、頼むよ。契約しているんだ報告は義務だぞ、分かっているよな?
 明日1日やるから明後日には報告してくれ。そこの二人もだぞ!」

こっそり博士から離れようとしていたセキトモとイズハも捕まって少しお説教された。

男性陣は会場設置、女性陣は料理の手伝いだ。
まあ、男性陣に料理が上手な人がいないからだけど。皿や料理運びくらいは手伝いますよ。
ロッカは食材を切るのが上手らしい。モンスターも細切れにしちゃうからな~。

準備が整った頃、客人がやってきた。
なんと! バルンで一緒に熊討伐に行ったラフロたちだった。
タイラー、リフロ、ルフロ、そして姉妹剣使いのエミリー、ケイミーの姿もある。

「トウマ、久しぶりだな!」
「皆さん何で中央に来てるんですか?」
「そこの旦那の護衛だよ。ついでにバルンのギルドからのお使いってところだな」

ラフロたちはバルンでクランを結成したそうだ。
クランはいくつかのパーティーが同じルールや方針で協力して活動をする組織だ。
クラン名は『デフィート・ベア』。リーダーはラフロ。
残りのメンバーはお留守番らしい。

「全員じゃないけどクランメンバーはあのとき熊討伐に参加したメンツだ。
 ギルド所属になっちまったけどな。主に討伐者がなかなか手を付けないクエストをやる感じだな。
 クラン名に関しちゃ俺たちも熊倒せるくらい強くなろうぜってことさ」

ラフロがニヤついている。
エミリーが声をかけてきた。エミリーも少し笑いをこらえているような感じだ。

「ラフロ。私たちは明日この都市で東大陸にない武器や道具を購入して回るでいいのよね?」
「ああ、そうだ。主に2スロットの武器だな。
 真魔玉をつかった癒しのロッド、炎のロッドが見つかれば必ず手に入れるように言われている」
「ロッド高いですよ。安くして貰って250万とか」
「マジか・・・。予算500万しか貰ってきてねーぞ」
「2スロットの武器もそれなりに高いので全然足りないかもですよ」
「うーん。皆、蓄えもってっかな?
 かかった費用は後でギルドに請求するとして場合によっちゃーこっちで稼ぐ必要があるかもな?」
「メルクベルに滞在する期間ってどれくらいですか?」
「2週間ってところだな、一ヶ月くらいで戻ってこいって言われてるからな」

とりあえず、稼ぐなら狩場の山の低層~中層って薦めておいた。
命の危険は少ないからね。
もちろん頂上にはユニコーンっていう難易度Aの化け物がいるって話も付け加えた。詳細は伏せたけどね。

皆が裏庭に集まってきている。

そろそろ始めるのかな?
何か皆、チラチラ俺のほうを見て笑ってる気がするけど。

博士が声をかけてきた。俺にではなく俺の後ろに。

「キュウケンさん。そろそろいいんじゃないですか?」
「え?!」

振り返るとそこにはじいちゃんがいた。
長い髭に白髪のオールバック。背筋はしっかり伸ばしている老人だ。

「いつまで気づかんのじゃ、未熟者が!」
「な、何でじいちゃんがここにいるんだよ!」

皆が笑っていた理由が分かった。
いつからか分からないけど、じいちゃんがずっと俺の後ろにいたんだ。
相変わらず上手く気配を消していやがった。
そんなの気づけるかよ。

「ははは。トウマ君がキュウケンさんの孫だったとは驚いたよ。
 しばらく来ていることは内緒にしてくれと言われてたのでな」
「博士とじいちゃん知り合いだったんですか?」

じいちゃんは俺の様子を見にバルンのギルドを訪れたらしい。
ちょうどその時、護衛の依頼をしにいったリラックさんと会ったようだ。
リラックさんもじいちゃんのことを知っていて博士の邸宅に招いたそうだ。

「トウマに餞別で渡した剣は昔、ビル坊から貰ったもんじゃ」
「キュウケンさん、もう私もいい歳なんですから坊づけはちょっと。
 トウマ君があの剣を持っていたわけが分かったよ。
 いなくなったキュウケンさんが東大陸に戻っていたとはね。
 てっきり亡くなったと思っていたんだが」
「勝手に殺すな、生きておるわい」
「はは。ま、そんなわけでトウマ君の様子を見にここまで同行してくれたんだ」
「トウマがビル坊と関わって、しかも中央に来ているとは思ってもおらんかったぞ。
 簡単には死なない鍛え方はしたつもりじゃ。
 順調なら抗魔玉を手に入れてそろそろ討伐者になっておる頃くらいなもんかと思っておったわい」
「あ、抗魔玉も真魔玉もついてなかったのってわざとか?」
「ついてないことは知っておったが、あれは何年か前にいつの間にか無くなったんじゃ。
 たぶん、盗まれたんじゃろうの」
「じいちゃん、心当たりはあるんだな?」
「まあ、剣はトウマに触らせないようにしまっておいたが真魔玉は引き出しに入れてただけじゃったからの」
「じいちゃん、真魔玉って中々手に入れられない高価なものなんだぞ。それを引き出しなんかに?」
「トウマ君、積もる話はあとにしよう。そろそろ始めるぞ」

皆が揃ったところで博士が挨拶をする。

「皆さん、集まってくれてありがとう!
 沢山用意して貰ったので遠慮なく飲み食いして楽しんでくれ。
 挨拶は短くするに限るよな?
 では乾杯!」

『乾杯!』

じいちゃんは皆に挨拶回りをしている。
俺は複雑な気分なんだけど。
なんか俺だけ親同伴みたいで恥ずかしい。じいちゃんだけど。
昔じいちゃんは剣聖と呼ばれたほどの剣の達人だったということをイラックさんが教えてくれた。
知らなかった。俺が中央産まれだということも。
3歳くらいまで中央にいて俺とイラックさんは何度か会っていたなんて。
そりゃ今の俺を見ても気づかないよな?

ロッカがやってきた。

「トウマ、あんたのおじいさん。凄い人みたいね?」
「俺もさっき聞いたところですよ」
「知らなかったの? あきれるわ。
 ま、あんたを拾った私の目に狂いはなかったってことね!
 剣筋はいいと思ったのよ、仕込まれてたんだ」

ロッカ、その前に拾われた覚えはないぞ。
剣筋はどうか分からんがここまできたのは俺の努力の成果なんだからな。
両親は剣術に長けた人じゃなかったんだ。
うる覚えだけど、昔じいちゃんが守れなかったって話してくれた。
まさか中央での出来事だったとは思ってなかったけど。

ロッカがまた食べに行くのと入れ替わりでじいちゃんがやってきた。

「トウマ、お前のパーティーには凄いのがおるようじゃの?
 若いのに上のステージにいる者が二人もおるとは。あのコらなら大丈夫そうじゃ。
 他の者も何かに長けておる、粒ぞろいじゃな。お前が足を引っ張るんじゃないぞ」
「分かってるって、俺も力を解放できるようになったんだ。まだ自在じゃないけどね」
「本当か? ならばそれを自在に出せるようになれ。
 お前はあのコらの影響を随分受けたようじゃの。
 力の解放は皆ができるわけではない。
 知る、見る、触れる、そして何かをきっかけに突然解放に至るんじゃ。
 最初は小さな力でいい、焦るではないぞ、じっくり育てるんじゃ」
「うん」

会食が終わるとラフロたちとじいちゃんは宿に戻っていった。
じいちゃんはラフロたちに同行してバルンに戻るので行動を共にするそうだ。
俺にずっとついて来るって言いださないか心配だったけど大丈夫だった。
じいちゃん相変わらずだったな。
村を出て二か月くらいしか経ってないんだ。急に変わったりしないか。







※この内容は個人小説でありフィクションです。