スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第12話 街外れの邸宅


トウマが酒場で男どもに討伐談をしている頃-----。

  ロッカとバンの二人は街外れにある壁に囲まれた二階建ての邸宅を訪ねていた。執事と思われる初老の男性が二人を出迎えた。二人は何度も通っているようで辺りを見渡すことなく執事について行く。二人は入ってすぐの二階が吹き抜けになっているラウンジに案内された。

「旦那様、バン様とロッカ様がおいでになりました」

 旦那様と呼ばれたのはラウンジのソファーに座って待っている白衣を着た中年の男だ。整えていないもじゃもじゃ白髪で髭を生やしているが顔立ちは男前とも言えるだろう。この男がロッカとバンが『博士』と呼ぶ人物である。

 博士はソファーから立ち上がり穏やかな顔で二人を迎えソファーに座らせると、執事が二人にも紅茶を出した。

「しばらく一緒に行動してたからこう時間が空くと随分会ってない気がするよ。ま、一息ついてくれ、話はそれからだ」

 博士は紅茶を飲み終えると、二人が一息ついたところでロッカに声をかけた。

「ロッカ君、この街のクエストに出ているとバン君から聞いていたが、何か収穫はあったかね?」

「いつも通りよ。今はこの辺でこなせそうなクエストに挑んでるわ。今日でクエスト3つ消化かな?」
「二人でもう3つもクエストをやったのか?」

 ロッカは言うかどうか迷ってバンを見ると、バンは頷いた。ロッカは仕方がないといった感じで言う。

「それと、面白いコを拾ったわ。そのコと一緒にクエストに挑んでたのよ。
 まだ未熟だけどセンスはあると思うわ」

 博士は少し身を乗り出した。

「ほほう、ロッカ君が興味を持つとは会ってみたいものだな。
 ちなみにそのコというのは男か?」
「1コ下の男よ」

 眉間にしわを寄せた博士が勢いよく立ち上がった。

「何だと?! 年下の男を拾ったというのか!」

 ロッカは面倒くさそうな感じで言う。

「そんなんじゃないから」
「しかしだな、1つ下というともう16の男だろ?
 何もされていないのか? 普通心配するだろう」

 バンが付け加える。

「その辺は心配ないと思いますよ。私もクエストで同行しましたし、どちらかというとロッカの凄さに圧倒されていたようでしたから」
「それを言うならバンにもでしょ」

「はは。君たちを押さえつけられるような男は早々いないか」

 ロッカは何か思い出したかのように手のひらを合わせ叩いた。

「あ、そのコ、2スロットタイプの剣持ってたけど抗魔玉着けてなかったのよ。初心者みたいだったし、私の予備1個あげちゃった」
「抗魔玉をあげただと? 抗魔玉すら持っていない初心者だというのか。2スロットの剣は持っているのに? う~む、討伐者が大事な抗魔玉を失うことなんてあり得ないし、そんなことあるのか?」
「実際持ってなかったし、そのコ、抗魔玉の力のことすら知らなかったのよ。でも動き自体は悪くなかったし、剣術の稽古はやってたみたい」

「・・・そうか。だがロッカ君も予備は必要だろう。あとで1個用意させよう。
 え~と、リラック君、頼めるか?」
「承知しました」

「2個頂戴よ。ケチ!」
「ロッカ! 博士にそんなこと言わないっ!」

「まあ、まあ、抗魔玉は私の研究でも必要なんだ。
 ホイホイあげられるものじゃないのは分かるだろ?」

「まぁ、そうだろうけどさ。あ、博士から貰った治癒の薬も使っちゃった」
「何ぃーーーー?! あ、あれは貴重な物なんだぞ! 分かっているのか?
 あれは使い方次第で四肢の切断だって瞬時に繋げられる治癒の秘薬なんだ。
 上級ポーションよりも更に効果が上なんだぞ。
 君らに万一の事があったときの為に渡していたんだ。それを・・・」

 「そんな貴重な物だったの?」

 ロッカはしばし俯いて考えた。反省しているのかと思われたが。

「バン、もっとトウマに奢らせても良かったかも?」
「そういう問題ではない!」
「いいじゃない、こっちで使うことないと思ったし~」

 怒った博士がロッカを追いかけ回すがロッカが捕まる訳がない。追いかけ疲れた博士はため息をつきながらソファーに座った。

「まったくロッカ君には手を焼かされるよ。ロッカ君にあんな貴重な物を持たせたのがそもそもの間違いだった。とほほ」

「気づくのが遅いのよ、バンに預けるべきだったわね。あはは」

「はぁ~、使ってしまったものはもう仕方ないか。せっかく来たんだ、二人共ゆっくりして行くといい、食事を用意させよう。おっと、その前にバン君、報告を頼む。そのつもりでここに顔を出したんだろ?」
「はい。博士がまた地下室に籠っているのではと思っていましたが会えて良かったです」

「はは、実は昨夜から昼過ぎまでは地下室にいた。気づいたら昼を過ぎていたからびっくりしたよ。少し寝不足かもしれん」
「そんなことばかりしていたらいつか体を壊しますよ」
「ん、気をつけるよ」

「じゃ、バンが報告してる間、私は料理を手伝ってくるわね!」

 ロッカは跳ねるように揚々と調理場に向かって行った。

「・・・バン君、ロッカ君は料理をするようになったのかね?」
「しませんね。でも食材を切るのは好きなようですよ」

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 食堂には豪華な食事が並んでいる。10名くらい座れそうなテーブルだが座っているのは博士、バン、ロッカの3人だ。

「3人だとさすがにさびしくない?」
「まあ、料理も多すぎるな」
「料理は全部食べるわ。ね? バン」
「そうですね。これくらいなら残ることはないかと」
「はは、前から思っていたが若いといっても君たちは底なしだと思うぞ。
 その小さい体のどこに入っていってるんだ?」
「さあ?」

「ところで地下室で何かやってるやつはいつ出来るの?」
「順調にいっても数か月はかかるだろうな。すまないが先に中央へ帰っててくれ」

「そう。何か月もこの街にいるのは退屈だし、言われなくても休暇終わったら帰るつもりよ。今回は護衛の仕事として来ただけだし」
「さみしいこというな~」

「私、ここに残りましょうか?」
「い、いや、大丈夫だ。バン君、ロッカ君を見ててくれないか?
 一人じゃ何をしでかすか分からない、心配だ」
「博士は私の保護者かっ? バンも一緒に帰るに決まってるでしょ」
「一応、私は保護者のつもりなんだが・・・。さみしい」

 苦笑いするバン。

「おほん。ところでロッカ君、そろそろ真魔玉を装着した武器を使ってみる気はないかね?」
「前から言ってるでしょ。博士の実験に付き合う気は無いわ。それに真魔玉着けると時間管理がよく分からなくなるんだもん。1回発動で抗魔玉の力を1分消費するとかさ、バンが上手く使ってるのがおかしいのよ」
「残念だ。まぁ、使ってみたくなったらいつでも言ってくれ」

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 博士の邸宅の二階には空き部屋が8室あるのだが、ロッカとバンは自分たちの宿に戻ることにしたようだ。

「二階に部屋は沢山あるんだ。あっちと同様二人共ここに泊まってもいいんだぞ?」
「やーよ! せっかくこの街を楽しむために別の宿とったのに」
「さみしいこというな~」
「どの道、博士は地下室に籠ったらなかなか出てこないじゃない」
「うっ、・・・そうだな」

 二人は博士の邸宅を後にした。

「そういえばトウマのやつ、あれからどうなったかな?」
「酒場に連れて行かれたんじゃないでしょうか? あ、雨が降って来ましたね」

「雨か・・・、予報見た?」




※この内容は個人小説でありフィクションです。