スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第19話 お見舞いと罰


 トウマとセキトモが蟷螂を討伐してから2日経った。(正確には中1日空いた)

 トウマはまだ博士の邸宅を訪ねていない。ロッカのことは心配しているが博士が大丈夫と太鼓判を押していることもあり、何となく気まずくて行けないでいるのだ。
 ギルドにも顔を出していない。討伐難易度Cを立て続けに達成してしまったので噂の熱が冷めた頃に行こうと思っている。食事や買い出しで街中には出ているが、何の約束もしていないのでセキトモと会うこともなかった。

 一緒にロッカのお見舞いに行く相談しとけばよかったな~。
 やっぱ、カマキリ討伐した件、話すとバンさん怒るよな?
 博士にも帰って休むように言われてたし。
 だけど、もうカマキリ討伐の噂が届いているかもしれない。
 大丈夫とはいえ、ロッカの様子は確認しておきたい。
 モヤモヤしてても時間が過ぎるばかりだ。

 そう思ったトウマはバンに怒られる覚悟を決めた。

 よし! 今日こそはロッカのお見舞いに行こう。

 遅過ぎるくらいだがトウマはロッカのお見舞いに行くことにした。お詫びとお礼を兼ねて店で一番の高級な肉とケーキ詰め合わせセット(合わせて約3万エーペル)を買って。

 これで許して貰えないかな?

 トウマが博士の邸宅を訪ねると、バンが出迎えた。

「あ、トウマさん! いらっしゃい」

 バンさん怒ってないっぽい?
 まだカマキリ討伐のこと知らないのかな?

「すみません。ロッカのお見舞いが遅くなってしまって」
「ロッカはもう起きていますけど、まだあの部屋のベッドにいますよ。中へどうぞ」

 ロッカまだ回復しきれていないのか・・・。
 でも無事ではいるみたいだな。ホッとした。

 トウマはロッカがいる部屋に向かい部屋のドアをノックした。

「トウマです。入りますよ?」
「おぶっ・・・”ごっくん” トウマ? 入っていいわよ」

 トウマが部屋の中に入るとロッカは大量の食事を摂っていた。

 何皿あんだよ?

「大丈夫・・・そうですね」
「血が足りないから食べてるのよ。まだ少しふらつくの」

”もぐもぐ・・・”

 そういう問題?

「意外と元気そうに見えますよ」
「まあ、大丈夫よ。腕もこの通り!」

 ロッカは自分の左腕が問題なく動くことをアピールした。

「トウマ、私の腕が飛んだとき固まってたそうじゃない?
 今回は助かったけど私たちは討伐者なのよ。
 いつ死んでもおかしくないし、私もそれくらいの覚悟は持ってるわ。
 例え目の前で仲間が死んだとしても戦闘中は絶対思考を止めちゃダメ。
 あんたまで死ぬわよ」

「・・・はい。肝に銘じておきます」

 気を取り直すようにしてロッカは言う。

「あのカマキリ、飛んで来ると思ってなかったから油断したわ。私のミスね。
 体調戻ったら倒しに行こうと思ってたんだけど、あんたたちが倒したんだって?」
「え? もう知ってたんですか?」
「トウマと一緒にいたセキトモって人が昨日お見舞いに来てくれたわ。
 それであんたと一緒にカマキリ倒したって聞いたのよ」

 セキトモさ~ん。
 先にお見舞いに来てるとは。裏切者~。
 いや、昨日ここに来てない俺が悪いのか。

「あのさ~、助けてやった私を差し置いて倒しに行くなんてどういうことよ?」

 えっ? そっちで怒るの?

 最終的にはロッカが蟷螂の鎌の腕を片方落としてくれていたおかげで倒せたという話で納得してくれて、トウマはロッカのお許しを得ることが出来た。
 高級な肉とケーキ詰め合わせを添えて。特にケーキの力が大きかったようだ。

「ま、かたき討ちって気持ちで倒しに行ってくれたわけだし、ありがとね。
 でもバンはまだ怒ってると思うわよ」
「やっぱり?」

 噂をすればというやつか、バンがお茶を持って部屋に入ってきた。

「バン。トウマが肉とケーキ差し入れてくれたわ」

 バンはロッカにお茶を静かに渡した。

「そうですか。お気遣い有難うございます」 

 トウマを見るロッカがほらまだバン怒ってるという目くばせをした。
 バンはトウマにもお茶を渡す。

「トウマさんもどうぞ」
「有難うございます」

 これお茶?
 ロッカのと違うすっごい黒い液体なんだけど。
 しかもなんか強烈な匂いもして・・・飲めそうにない。

「昨日、セキトモさんからカマキリ討伐の件、伺いました。
 私、トウマさんに忠告しましたよね?」

 キタか! バンさんの口撃。
 こちらは許して貰えるまで謝るのみ。

「は、はい。すみません! 許して下さい」

 静かな振る舞いだけどバンさんが怒ってるのは何となく分かる。

「・・・」

 ロッカは見兼ねて助け船を出した。

「もう許してあげなよ、バン。トウマも反省してるって」

「そうですね。でも罰は受けて貰いますよ。それを飲み干せたら許しましょう」

「え?!」

 この黒い液体を?
 そのために用意したの?
 これが罰なのですか?
 ・・・でも飲まないとバンさんに許して貰えない。
 う~、飲むか、飲むしかねー。

 トウマは鼻をつまんで黒い液体を一気に飲み干した。

「うげぇ、まっず・・・」
「あはは。だろうね! トウマよくそれ飲めたわね。
 それ馬の糞とトカゲのしっぽをすり潰したもの混ぜてあるんだけど」
「ぶっ、ぶうぇーーーーーっ。何てもの飲ませるんですか?」
「ぷっ、うふふ。あははは」

 バンが笑っている。
 ロッカはトウマを見てニタリと笑った。いたずらっ子の顔だ。

「ウソよ」

 え? うそ?・・・どこから?

「それは色々な薬草を煎じた健康茶です。マズいですよね。あははは」
「そうでしたか・・・。あ~、びっくりした~」

「トウマさんが十分に反省したのはこれで分かりました。許しましょう。
 無事に帰って来たと聞いて安心しましたが、始めに討伐しに行ったって聞いたときはホントに心配したんですからね! 無茶しないで下さい」
「・・・本当に、ゴメンなさい」
「お水どうぞ」

 水飲んでも全然口の中の苦さが取れないんですけど・・・。

「ところでトウマ、明日空いてるわよね?
 私のなまった身体のリハビリするから手伝いに来なさいよ」
「OKっす・・・」

「よーし、バン。皆でトウマが持って来たケーキ食べようよ」
「まだ食べるんですか? ロッカ、昨日からずっと食べてるでしょ?」
「でもケーキは別腹でしょ?」

 その後、トウマが持って来たケーキを頂いて、トウマはなんとか口の中の苦さが取れたようだ。

「お邪魔しました。ではまた明日来ますね」

 ロッカは元気そうだったし、バンさんへの気まずさが解けて良かった。
 昨日、来とけば良かったな。

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 トウマは博士の邸宅を出て街中を歩いていた。すると、突然何者かに口元を抑えられ、裏路地に引き込まれた。

「うぐっ」

 な、なんだ?

「しーー。僕だよ、セキトモだ。静かにして」

 トウマは口元を抑えられた状態で頷いた。

「さっきギルドに寄ったんだけどさ、例の討伐の件でトウマ噂になってたよ。
 『がんぐ』捕まえて話を聞こうとか騒いでた。見つかったらトウマ捕まるよ!」

「マジ?!」
「話せない事が沢山あるんだろ?」
「・・・ですね」
「僕も一緒にいたからその事に気づかれる前にギルドから抜け出してきたんだ」

 二人は他の討伐者がいない所へコソコソと移動することにした。

「俺はさっき博士の邸宅に行って来たんですけど、セキトモさんは昨日、ロッカのお見舞いに行ったんですってね?」
「ああ、早い方がいいと思ってね」
「もー、行くなら俺も誘ってくださいよ~」
「いやいや、トウマがどこに住んでるかも聞いてなかったからさ」
「あ、そうか。俺は『旅人の宿』ってところに泊まってます」
「あそこか。宿代高いだろ? 旅行者が泊まる所だし、この街で生活するんだったらもっと安いところ探さないと」

「そういうもんなんだ・・・」

 ずっと村にいたから相場すら知らなかったよ。

「ところでさ、トウマは博士の邸宅でバンに黒いお茶飲まされた?」
「ん?! まさかセキトモさんも?」

「「ぷっ、あははは!!」」

 セキトモも黒いお茶を飲まされたようだ。

「俺、明日、ロッカのリハビリの手伝いに行くことになったんですよ」
「うそ? 僕も明日行くよ。博士に呼ばれてだけどね。
 何か準備しているらしくって、それが終わってから話したいことがあるってさ」
「それなら一緒に行きましょうよ」

 二人は明日、一緒に博士の邸宅を訪ねることを約束し、それぞれの家路についた。




※この内容は個人小説でありフィクションです。