スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第24話 野営


 特急クエストを受けた討伐者たちは巨大爪熊がいる森の近くの集落に到着した。
 集落は端から端まで200~300mほどの広さだ。集落を囲むように少し離れた位置にモンスター除けの柵が立ててある。高さは腰くらいまでなので飛び越えて入れそうな感じだ。
 集落と柵との間の平地には山積みでテント用の部材が用意されていた。支援物資として食料や水なども用意してある。
 討伐者たちは今夜この集落で野営するのだ。

 集落の長からテントを張るのはモンスターの襲撃に備えて森がある方にして欲しいと言われた。遠目で集落の人々が物珍しそうにこちら側を見ているが近づいてくる者はいない。討伐者たちの邪魔にならないように支持が出されているのだろう。

 ここに来た討伐者メンバーは
 トウマ4人組、
 ラフロ4人組、
 剣、槍、弓使いの3人組、
 剣使い2人組、
 槍使い2人組、
 姉妹剣使い2人組、
 単独で剣使い3人といったところだ。

 ちなみに姉妹剣使いの2人は大人なナイスバディで男扱いには慣れた感じである。すでに何人かの男たちが鼻の下を伸ばしているようだ。

 ラフロが集まっている討伐者たちに声をかけた。

「誰か集団でのモンスター討伐の指揮を取ったことあるヤツいるかー?」

 シーーーーーン。

「何だ、いねーのかよ。じゃあ、年功序列だな。
 一番、年上のヤツ指揮取ってくれ! 誰だ?」

 ラフロだった。

「俺かよ! 何だ? 俺より年上の熟練者こっち来てねーのかよ。
 俺が一番年上っつっても29だぞ」
「言い出しっぺに回ってくるってヤツだね、ラフロ」
「お前も同い年だろ、タイラー。お前俺の補佐な!」
「巻き込まれた~」
「兄貴! 俺たちは何すればいい?」

「そうだな~、とりあえず今からどうするかタイラーと作戦考えるから、リフロとルフロは決まったことを他の討伐者に伝達してくれるか?
 20人だしここにいる全員で決めてもいいが、意見がまとまらないのは面倒だしな。賛同してくれる奴らだけで組むことにする」
「「了解~」」

 ラフロは討伐者全員に向けて言った。

「俺が今回の討伐指揮を取ることになったラフロだ!
 賛同しないやつらは勝手に動いてもいいが、俺たちの邪魔はしないでくれよ。
 これは特急クエストだ。
 とりあえず、皆自由に野営の準備でもしててくれ、あとで連絡する」

 まだ一致団結という訳にはいかないようだがラフロの話を聞き終えた討伐者たちは散り散りになり、それぞれテントや食料の確保に動き出した。まだ集落を出て森の方に近づく者はいないようだ。

 ラフロがメンバーに言う。

「俺たちもまずは野営の準備に取り掛かろう。
 リフロ、あとでトウマたちをこっちに呼んできてくれ。
 あいつらの意見も聞きたい」

 トウマたち4人は他の討伐者から少し外れた位置にテントを張っていた。テント1つで二人寝れないこともないがテント部材が沢山用意してあったので贅沢に一人1つ張ることにした。装備を外して置けるスペースも欲しかったのも理由の一つだ。
 トウマとセキトモの二人で皆の分のテントを張っていっている。女子的に男どもから少し離れたいということで、トウマとセキトモは他の討伐者との間、且つ、近くに張れというのがロッカの支持だ。

 テント張るのは俺たちに丸投げかよ~。
 ま、食料確保はしてくれるっていうし役割分担だな。

「トウマ、こっちのテントも張るから手伝ってくれ!」
「はーい」

 セキトモは要領よく次々にテントを張っていく。

 宿屋ってテント張る作業とかあるんだっけ?

 しばらくして、ロッカとバンが戻ってきた。大量の食料を抱えて・・・。
 それを見たセキトモは驚いた顔で言う。

「ちょ、二人とも。食料持って来過ぎなんじゃない?」
「だって、たくさん有ったんだもん」
「私も持って来過ぎかと思いましたがロッカが残すの勿体ないと言い出しまして」
「僕たちで全部は食べきれないよね?
 余ったらあとで僕が他の人たちにも分けてくるよ」

 セキトモさん、まだ分かってないな。
 この二人めちゃくちゃ食うんだよ。

「トウマ、薪もあったから火起こしてよ。焼いたほうが美味しそうな食料もあるし」
「え? 俺、火を起こす道具なんて持って来てないですよ?」
「炎熱剣があるじゃない。薪刺せばすぐ火着くでしょ?」

 マジか・・・。
 俺の華々しい炎熱剣デビューが火起こし?

 トウマは仕方なく炎熱剣で薪を刺し火を起こした。セキトモは「いいアイデアだったね!」と言い、火を他の討伐者たちにも分け与えていった。

「さっきリフロから野営の準備が終わったらラフロの所に来てくれって言われたわ。
 私たちの意見を聞かせて欲しいんだって」
「俺もですか?」
「そ、バンだけでいいと思うけど私たちも行くわよ。
 悪いけどセキトモ、火の番しててくれる?」
「おう、分かった。
 討伐経験浅い僕が行っても役に立ちそうにないからね。
 あとはやっとくからもう皆行って大丈夫だよ」

 トウマ、ロッカ、バンはラフロがいる所に顔を出した。

「お、来たな! 待ってたぜ。まずは俺たちが考えた作戦を聞いて貰おうか。
 あくまでも叩き台と思ってくれ」

 ラフロたちの作戦はざっくりしていた。

 まず、今日は偵察部隊を編成して森へ入ってモンスターの進行状況を確認する。偵察部隊は最低6人。二人1組で3方向に向かう。熊に察知されると状況が変わるかもしれないのでモンスターとの戦闘はなるべく避ける。暗くなる前に集落に戻ってこれる距離まで行ったら引き返す。本番の討伐は明日だ。
 パーティーを組んでいる連中は連携しやすいだろうからそのままパーティー単位で動く。雑魚はどんどん倒していって手に負えないモンスターが現れたらなるべく熊がいない方向に引き付けて足止めする。

 本命の熊はトウマたちのパーティーに任せる。以上!

「・・・それって、熊は俺たちに丸投げってことですか?」
「わはは、バレたか!」
「悪いね。うちの大将バカなんだ」
「何だと、タイラー! じゃ、お前が考えろよ」

「悪くないんじゃない? どう? バン」

「そうですね。
 熊以外のモンスターを引き離してくれるなら私たちも熊だけに集中できそうですし、あとは熊と戦う場所ですね。広い場所に誘導できればいいんですけど・・・。
 おそらく周辺の木々は簡単になぎ倒されてしまいますし、倒した木を振り回されたり投げられでもしたら手に負えないでしょう」
「そうね。それに私たちの高火力の攻撃は火着いちゃうからね」

「?」

 ロッカの発言を理解したのはトウマとバンだけだった。

「とりあえず、熊見つけて戦いやすい広い場所に誘導するのが先決ってこと。
 熊に気づかれる前にこちらが先に見つけるのが理想かな?」
「ほら見ろ、悪くねーみたいだぜ。わはは」
「まったく、ラフロは能天気なヤツだ。
 でも君らが熊に行ってくれるなら誰も文句は言わないだろうな。
 難易度Cをたて続けに達成した噂くらいは知ってるだろうし、こっちは討伐できる希望ありって感じだよ」

「ところでセキトモはそっちのメンバーに加わったのか?」
「そうですよ。セキトモさんも加わりました!」
「あいつ力あるから熊の攻撃、大盾で止めるかもしれんな。いやさすがに無理か。
 守るヤツがメンバーにいるってのも生き残るには必要だし、ちょうどいいかもな」

 セキトモさん、今は守るだけじゃないけどね。

「よっし! じゃあ、動くぞ。トウマたちは今日は無理しないで明日に備えてくれ。
 リフロ、ルフロ、話は聞こえてたな? 討伐者連中に伝えて来い。
 まずは偵察部隊を募ろう」
「「了解!」」

「夕食後に偵察部隊からの情報を展開するからまたここに集まってくれ。
 んじゃ、解散!」

 森の偵察には
 剣使い2人組(シレン、マーカス)、
 槍使い2人組(ドット、ビッグ)、
 姉妹剣使い2人組(姉エミリー、妹ケイミー)
 が行ってくれることになった。

 トウマたちは偵察部隊が森から戻って来るまで今のパーティーでどう連携するかを考えたりしていた。

 少し早めの夕食を取っている何気ない時だった。

「どうしたんだ? トウマ、さっきから黙ってるけど」
「もしかして、熊おびき寄せるのにこれ使えたりしないですかね?」
「それいいかもしれませんね。
 相手はモンスターですが擬態元の特性や習性は残っていることが多いです。
 効果あるかもしれませんよ」

「んー、勿体ないけどやってみる価値あるわね。樽あるかな?」




※この内容は個人小説でありフィクションです。