スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第25話 討伐作戦開始


 夕食後。トウマ、ロッカ、バンの三人は再びラフロたちの所に集まっていた。
 偵察部隊からの報告によると森に入った範囲では熊の姿は確認できず、従えているモンスターにも遭遇しなかったようだ。
 モンスター集団が夜行性という情報はないので今夜中に集落を急襲してくることはないだろうという話。まだ熊の位置は集落から遠いようだ。
 3組とも1度だけ遠くで熊の咆哮が聞こえたようで聞こえた声の方角から真ん中を進んでいた槍使い2人組(ドット、ビッグ)の正面方向に熊がいると推測された。

 それを踏まえて討伐部隊は4チーム編成にすることになった。

 ・左チーム
  剣、槍、弓使いの3人組(アブロ、ベース、ロバート)、
  剣使い2人組(シレン、マーカス)
 ・ラフロチーム(中央前衛)
  ラフロ組(ラフロ、タイラー、リフロ、ルフロ)
 ・右チーム
  槍使い2人組(ドット、ビッグ)、
  姉妹剣使い2人組(エミリー、ケイミー)
  +剣使い3人(トラッド、シン、マッグ)
 ・トウマチーム(中央後衛)
  トウマ組(トウマ、ロッカ、バン、セキトモ)

 中央前衛と中央後衛は混合パーティーではないので、ラフロチームとトウマチームと呼ぶことになった。
 皆、特急クエストということもあり協力的だった。

 単独で参加していた剣使い3人(トラッド、シン、マッグ)は、姉妹の剣使い(エミリー、ケイミー)と組んだ。人数的なバランスは取れていないがこの4チームで全員が100~200m圏内の距離で森を突き進む。何かあったとき声が届いて、すぐに駆けつけられる位置で移動しようという提案だ。

 各チームの代表者は
 左チーム:ロバート
 ラフロチーム:ラフロ
 右チーム:エミリー
 トウマチーム:トウマ
 となった。

 何で一番下っ端の俺が代表になるんだよ、ロッカのやつ。

 熊以外のモンスターは当初の計画通り倒せるヤツは倒して手に負えないようなら熊から引き離すように誘導、または足止めをする。
 ロッカが時々見渡しの良い所で木に登り、周辺に熊がいないか確認するという提案も採用。ロッカは木に登るのが得意なようだ。熊は相当大きいだろうから見えるかもしれない。
 あとは先に熊を見つけることが出来たら用意した樽を戦いやすい所に設置して熊をおびき寄せる。樽の中身は果物をぎっしり詰め、上からたっぷり蜂蜜をかけた甘い匂いが漂う熊用極上スイーツだ。中身は潰れないように明日の朝に詰める予定。匂いに誘われて食いついてくれることを願おうといったところだ。

「まあ、こんなもんかな? あとは臨機応変で対応していこう。
 んじゃ、解散! みんな明日、頼むな!」

 一同が解散してテントがある所に戻っている途中にバンは言った。

「ラフロさん、案外いいリーダーかもしれませんよ。
 ざっくりしていて分かりづらいですけど、彼は皆の命を最優先で考えています」

「・・・バカっぽいけど、そうかもね」

 ラフロの評価が急上昇した。

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 早朝、討伐者一同は森の手前まで来ている。
 森への突入準備抜かりなし!と言いたいところだが用意した熊用極上スイーツ樽が重過ぎるので森の中での運搬をどうするかの問題が発生していた。

「「兄貴~!」」

「あの樽、重過ぎて俺たち二人でも持っていくのは無理だ~。
 森の中にまで台車引っ張って行けねーし」
「う~ん、どうすっか?
 運搬のことまでは考えてなかったぜ。
 力ありそうなセキトモは大盾持ってるしなぁ」
「ラフロ、樽は諦めてここに置いていく?」

 バンが樽を背負えるようにする為、手早く樽に紐を巻き着けた。
 バンは肩に紐を通して樽を背負う。

 ひょい。

『ウソだろ?!』

 軽々と重い樽を背負うバンに驚愕する一同。トウマたちは苦笑いしていた。

 皆が落ち着いたところでいざ森に突入。ラフロの号令と共に討伐者たちは次々と森の中へと入って行った。作戦開始だ!
 先発のラフロチームから少し遅れてトウマチームも森の中に入って行く。

 討伐者たちが森の中を30分ほど進んだ頃だった。

 右チームがモンスターと遭遇。

「いたわ! モンスターよ!」

「小型のモンスター数体確認! こいつらは俺たちで対応するぞ」
「共闘みたいね。熊の一団と推定いいと思うわ」
「もうこんな近くまで来てるのか? 周囲も警戒しておけよ」

--- トウマサイド

「右チームがモンスターと遭遇したみたいですよ。
 俺たちは行かなくて大丈夫ですかね?」

「あっちは人数多いし、小型なら問題ないでしょ。
 私はラフロの所に行ってくるわ。後方からじゃ熊見えないし」

 ロッカは山道を軽快に走って前方にいるラフロたちの元に向かった。道悪だがまだ集落に近い距離のため所々木が伐採されており、木々の間隔は広めである。武器を振り回すのに十分な広さはあると言えよう。

「トウマさん、セキトモさん、私は樽を背負っているのですぐには動き出せません。
 いつでも動き出せるように心の準備だけはしておいて下さい」
「「はい!」」

---ラフロサイド

 ちょうどロッカがラフロたちの所に着いた時だった。

「兄貴! あそこ、爪トカゲが2体いる!」
「ちょっと待って。あっち、大型の角カブトもいるよ!」
「リフロ、ルフロ、お前ら二人はトカゲのほうに行け。一体ずつ倒すんだぞ。
 カブトは俺とタイラーで相手する」
「「了解!」」

「ラフロ、こっち大丈夫?」
「ロッカか、今モンスター見つけたとこだ。
 やってみないと分からねーがここは洞窟みたく暗いわけじゃねーからな。
 しばらくは俺らに任せて熊を探してくれ」
「分かったわ。マズいときは逃げるか応援呼びなよ」
「おう、分かってる!」

 リフロとルフロはトカゲのほうに向かい、ラフロとタイラーがカブトのほうに向かって行った。ロッカは周囲を見渡し、登れそうな木を見つけ登って行く。

「ダメだラフロ、俺の弓じゃカブトの甲殻は射貫けず弾かれる。相当堅いぞ!」
「タイラー、カブトの細い脚の関節を狙え! せめて動けなくしてやろうぜ」

--- 左サイド

左チームも小型:針蜂、中型:牙犬、大型:鱗蛇と遭遇。

「向こうもモンスターと戦いが始まってるみたいだ。
 こっちはこっちで何とかするぞ」
「OK!」
「蛇の巻き付きに気をつけろよ。あの鱗、かなり堅そうで鋭利なようだ」
「蜂は任せてくれ。俺が全部射ってやるよ!」

--- トウマサイド

 ラフロたちの所を猛スピードで駆け抜けて、赤い目をした牙猪が突っ込んで来た。

「セキトモさん、何かこっちに突進して来ます!」
「僕に任せて!」

 セキトモは二人の前に出て守るように大盾を構えた。

”ドドドド・・・・ガンッ!!”

 牙猪の突進を受け止めたセキトモは押し込まれ少し後ずさりするものの、完全に牙猪の動きを止めることに成功した。
 体当たりを止められて少し目を回している牙猪に左側からトウマ、右側からセキトモが攻撃を加える。左右からの同時攻撃だ!
 牙猪は悲鳴を上げた後、霧散していった・・・。

「やりましたね!」
「左右からの連携バッチリだったな!」

 ハイタッチ!

「二人とも凄いです!」

--- ラフロサイド

 ロッカは近辺で一番高い木の上に登り周囲を観察していた。

「ラフロたち、意外とやるじゃない」

 リフロとルフロが爪蜥蜴を倒してラフロたちと合流しそうだ。ラフロとタイラーは角カブトの脚を数本落とし、角カブトの動きを鈍くしたようだ。少し先に牙蛇2体がいるのでそのまま交戦するだろうとロッカは予測した。

「4人になればあれも大丈夫そうね」

 ロッカは更に森の奥の方に目をやった。熊の姿は確認できないが、それに気づいたときロッカは少し固まった。熊が何処にいるのかはすぐに分かった。ゆっくりとだが道が出来ていっているかのようにバタリ、バタリとその周りの木が左右に倒れていく。巨大爪熊は進行方向の木を全てなぎ倒して直進しているようだ。

 熊に服従した他のモンスターは兵隊として熊の進行先の前衛にいるものの、熊のすぐ傍にはいない。熊の横暴に巻き込まれないように自然と距離を置いているようだ。
 モンスター集団となり他のモンスターの役割が自然と決まった。モンスター同士で対峙した場合、その場で殺し合いになるか、熊の元に通して服従か死かの選択をさせる。恐れをなして逃げるモンスターは兵隊たちが追って殺す。今は討伐者が相手なので対峙したモンスターは戦闘一択だ。

 ロッカは木の上からラフロに聞こえるように伝えた。

「熊は進行方向約300m先、ゆっくりこっちに向かって来てるわ。
 あと、そっち蛇2体もいるわよ、気を付けて!」
「見つけたか! こっちは大丈夫だ、熊の方はお前らに任せるぜ」

 ロッカは更に周囲を観察した。木材調達で伐採した所なのか、過去にモンスターが暴れた所なのかは分からないが所々に木々が生い茂っていない場所を見つけた。

「風向きは右方向からみたいね。ならあの付近が最適か」

 ロッカは急いで木から降り自チームの元に走った。




※この内容は個人小説でありフィクションです。