スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第39話 三体の狼(1)


 カニ祭りをした翌日。スレーム・ガングの5人は昼過ぎてからギルドに顔を出した。そこでカウンターのおばあちゃんからクエストを紹介というより頼まれた。

「お前さんらちょいといいかい? このクエストを検討してみてはくれんかのう?
 もう半年ばかり誰も手を付けておらんのじゃ」

 おばあちゃんが頼んできたクエストは『牙爪狼討伐』。難易度はBだ。
 山に生息する三体の狼のモンスターが共闘して襲って来るというもの。いずれも大型だが少し大きめの牙と爪が両方特化した牙爪狼がボス狼で他の二体は牙狼、爪狼という組み合わせ。時期的に狩場を変える可能性があり、放置しておくと人里に降りて来ないか心配なのだそうだ。

「ユニオン・ギルズのコたちにも打診してみたんじゃがね。
 あのコらはもう中央に帰っちまうそうでな」
「あー、あいつらはどうでもいいわ。
 それよりこの依頼受けるかどうか少し考えさせて」
「分かっとるよ。無理はしなくてよいからの」

 スレーム・ガングのメンバーはカウンターから少し離れたテーブルでクエストを受けるか相談を始めた。

「三体の狼か~、強そうですけど巨大ではないんですよね?
 難易度Bに近いって言ってた猫は倒せましたし、討伐できるんじゃ?」

「狼が巨大化したら一体でも難易度Aよ。巨大じゃないのに大型三体でBなのよ。
 狼はそれくらいヤバいの。猫の比じゃないわ」
「それって、俺たち生きて帰れます?」

「しっかりとした戦略がなければ間違いなく私たちは全滅するでしょうね」
「いきなり襲われたら僕たちは終わりってことか」
「少なくとも何人かは死ぬでしょう」
「ヤバい匂いしかしないっす」

「しかも見て、狼の生息地はカニを獲って来た川の上流の山よ。
 知らずに上流まで行ってたら危なかったわね」

 ぞっとするトウマ、セキトモ、イズハだった。

 すると、噂もしていないのにすでに中央に帰ったと思われていたギルが頭をかきながらギルドに入って来た。
 他のユニオン・ギルズのメンバーも一緒のようだ。

「参ったぜ~」
「これからどうすんのよ? ギル」

 気づいたロッカはギルに声をかけた。

「ギル。あんた達、中央に帰ったんじゃなかったの?」
「師匠~」

 タズがロッカに抱き着いて来た。ロッカはタズを引き離そうとしているがギルはそれに構わず話した。

「それがさ~、大橋の工事やり始めてたみたいでよ。
 あと三日間は通れないらしいんだわ。もう気持ちは中央だったんだぜ。
 どうすっかな~、船出して貰うほうが早いかなぁ~」

 ギルはスレーム・ガングのメンバーが集まっているテーブルを見た。

「お前らも勢ぞろいって感じだな。なんか一人増えてねえか?」

 イズハは一方的にだがユニオン・ギルズのメンバーを知っている。ギルの視線には気にもとめずセキトモと狼についての話を続けた。

 ロッカはギルに含みある笑顔を見せた。

「何だよ? 気持ち悪い顔しやがって」
「あのコはうちの忍者よ。あとで紹介してやってもいいけど今はこっち。
 あんた達、暇ならこの狼討伐一緒に行かない?」

 ロッカはギルに『牙爪狼討伐』の依頼書を見せた。

「あー、それか。この前断ったやつだな、少し遠かったし。
 う~ん、お前らと共闘討伐か。狼は厄介だが面白そうだな。
 大橋の工事終わるまで三日もあるし・・・乗った!
 報酬は成果関係なく半々でいいよな?」

「そう来なくっちゃ! みんな~、追加戦力ゲットしたわよ。
 これなら狼討伐行けるんじゃない?」

 パーティー2組の共闘でクエストに挑むことが決定した。

 スレーム・ガングは目的地近くのオドブレイクまで行き本日野営することにした。
 ユニオン・ギルズも馬車を調達して後から来るそうだ。狼討伐は明日だ。

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 スレーム・ガングの5人がオドブレイクで野営の準備をしていると、ユニオン・ギルズが到着した。二頭立ての馬車を借りてきたようだ。

「あの馬車借りるの一日で2万だぜ、高けーよ。ま、着くのは相当早かったがな」

 さっそくユニオン・ギルズも野営の準備を始めた。

 まずはこのパーティー2組の対狼戦における戦力を整理しよう。

 ・狼の走る速さについて行けそうなのは身軽なロッカ、イズハ、タズだろう。
 ・距離を置いて攻撃できるのはグレイブのセキトモ、槍のサイモン、鞭と剣のカリーナ。(クナイを投げればイズハ)
 ・近接攻撃で攻撃力が高いのは剣のトウマ、剣のギル、三刃爪のバン。(ショートグレイブ時のセキトモ)
 ・機動力のある狼が三体なのでセキトモの大盾は余りあてにできないだろう。

 といったところだ。

 ちなみにカリーナの鞭は抗魔玉の力を伝達させられる武器ではない。打撃、捕縛用の補助的な武器である。モンスターを倒すことまではできないが一時的にダメージを与えることは可能だ。

 それを踏まえてチーム編成。
 ・セキトモ、サイモン、カリーナを前衛チーム。
 ・トウマ、ギル、バンを後衛チーム。
 ・ロッカ、イズハ、タズの上空から奇襲するチームを忍びチーム
 となった。忍びチームという名にしたのはロッカである。

 狼に遭遇した場合、前衛チームが距離を置いた状態で攻撃。内に入ってきたら後衛チームが対処するというのが基本戦略だ。
 忍びチームは自由行動。木の上から状況を見て対処してくれれば問題ないということだ。

「襲われても助けねーぞ」というギルの一言でイズハとタズに緊張が走った。

 前衛チームと後衛チームは連携をどうするのかを考えて意見交換中だ。忍びチームは別で作戦を考えているようだが他のチームを置いて逃げようとかいう作戦じゃないことは確かだろう。

 トウマは他のパーティーメンバーとの連携が初めてなのでワクワクしていた。

「トウマ、お前真ん中な。
 バンは左だ、両手爪だからセキトモに守って貰え。俺はカリーナ守るから右だ」
「あらギル。男前なこと言うじゃない。頼りにしてるわ」

 並びはこうだ。
 前衛左からセキトモ、サイモン、カリーナ。
 後衛左からバン、トウマ、ギル。

 ギルは「真ん中はボス狼が相手かもしれないぜ。覚悟しとけよ」と、トウマに言ったが実際は経験の浅いトウマが最初に襲われないように配慮した布陣だ。

「それからトウマ、俺たちは即興のチームだから意思の疎通が上手くできるとは限らねえ。お前が一番年下だが戦闘中は俺たちを呼び捨てろ。伝えたい事はなるべく短い言葉で伝えるんだ」

「どういうことですか?」

「例えばだな、『サイモンさん、右から来ます』と『サイモン、右』だとどっちが早く伝わる?」
「そっか、なるほど。分かりました!」

 トウマはぶつくさと呼びかける練習をしてみた。

「サイモン前、カリーナ右、ギル後ろ、バン上、セキトモさん、あれ?」

 苦笑いしながら一理あると思ったバンが言う。

「私も呼び捨てるようにしようかな?
 でもトウマさんとセキトモさんの連携は最近アイコンタクトに近いですよね?」
「だね。僕たち声かけるの大抵はモンスターとの距離があるときか戦闘終わってからだもんね」
「とりあえずセキトモさんはセキトモさんでいいか。これは先の課題にします」

 眼鏡の位置を直したサイモンがトウマに話しかけた。サイモンは見るからに勤勉なタイプだ。

「トウマ、明日は私と前後で組むことになるな。宜しく!」
「サイモンさん、明日は宜しくお願いします!」

「今から少し前後の連携を練習しておかないか?
 セキトモさん、トウマ借りていいかな?」
「僕は大丈夫だよ。あ、勉強になりそうだから僕も見てていいかな?」
「構いませんよ」
「いいですね。やりましょう!」

 ギルとカリーナがいちゃつき出したのでバンもトウマたちに合流した。

 一方、ロッカたち忍びチームは作戦を練っていた。

「私たちは木の上からの奇襲って話だったけど、それはそれ。
 狼は三体もいるんだから私たちで一体片付けるつもりでやるわよ」

「ほほう。で、どうするでござるか?」
「師匠、このイズハって人、忍者なんですか?」
「そうよ」

 タズは目をキラキラさせている。

「私、忍者初めてみました!」
「見れて良かったわね」
「宜しくでござる・・・っす」




※この内容は個人小説でありフィクションです。