スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第41話 三体の狼(3)


 ボス狼と対峙しているトウマとサイモン。
 トウマは左にいるサイモンをチラリと見たが打つ手はなさそうだ。

 くそっ、俺たちじゃ狼の攻撃を防ぐのが精一杯だ。どうする?
 他は今どうなってる? でもこいつからは目が離せない。

 カリーナが走ってやって来た。援護が来たようだ。

「トウマ、二歩下がって!」

 すぐにカリーナは長い鞭をボス狼に向けて振るった。

”ヒュン! がしっ!”

 ボス狼の前足。左爪の根本部分をカリーナの鞭が絡めとり、カリーナが力強く鞭を引くとボス狼が体勢を崩した。

「今よ!」

 トウマは持っていたボロボロの丸い盾を捨てて鞭に絡めとられたボス狼の左前足に飛び込んだ! 両手で持った剣に全体重を乗せて力強く振り抜く!

”ズバン!”

 ボス狼の左前足首が切れてボス狼は悲鳴を上げた。機を逃さずサイモンはボス狼の左目を槍で突いた! 左目を潰されたボス狼がまた悲鳴を上げてのけぞった。
 遅れてやって来たバンが走り込む勢いそのままにサイモンの左側に回り、ボス狼に対し左の三刃爪で引き上げるようにして横腹を斬り裂くと、ボス狼は悲鳴を上げながら勢いよく吹き飛んだ!

「やったか?!」

 サイモンの声にバンは応えた。

「浅いです! あの狼、自ら飛びました」

 まだだ! 集中しろ。

◇◆

 二体の狼がボス狼の連続した悲鳴に反応した。

 あいつが負ける? そんなバカな。
 様子見している場合ではない、我々も殺らなければ殺られる。

 突如、二体の狼が目の前にいる相手にそれぞれ襲い掛かった!
 
 セキトモは大盾で爪狼の攻撃を防いだ。

「急に来たな!」

 セキトモはロンググレイブにして振り回した。相手を威嚇するには十分だ。爪狼はセキトモに近づくことができずにいる。

 一方、ギルは牙狼の攻撃を盾を使わず間一髪でかわした。

「うお?! 何だ? いきなり、あぶねー」

 すると突然ギルと相対している牙狼の背に小石が当たった。振り向いた牙狼の目に映ったのはロッカだ。

「ギル、こいつ貰うわよ!」
「は?!」

 ロッカは牙狼を誘うように走り出した。
 牙狼は突然現れた目の前の小さな生き物を追いかけた。
 ロッカは走った先で素早く木に登る。追いかけて来た牙狼は木を見上げるが次に目にしたのは目先の地上にいるタズだった。

 タズはきょどっている。

「ふあぇえええ?!」

 牙狼は木に登ったロッカに構うことなく牙をむき出しにしてタズに飛びかかった!

「タズ! 逃げろ~!!」

 ギルは叫んだが遠過ぎて助けられない。

 と、次の瞬間、タズに飛びかかったはずの牙狼が宙に浮いたままもがき出した。

「作戦成功~!」
「さすが師匠です~!」

 ギルはロッカたちの元に駆け寄った。牙狼はまだ宙に浮いてもがいている状態だ。

「どういうことだ? これ?」

 ギルは宙に浮いた牙狼を観察すると、全身に細い糸が絡まっていることに気づいた。約3m間隔の木と木の間に糸が十数本張ってあったのだ。

「この糸に引っかかってやがったのか? 頑丈な糸だな」
「イズハの武器の予備の糸を使わせてもらったのよ。
 上手く引っかかってくれて良かったわ」

 タズはキラキラした目で言う。

「忍術です!」

「で、そのイズハは何処行ったんだ?」
「セキトモの援護よ。それよりこいつどうする?」

「殺るに決まってんだろ?」
「糸は切らないようにしてよ」

 そこからの牙狼は語るまでもないだろうが一方的に斬り刻まれて霧散した。

 爪狼と相対しているセキトモはロンググレイブを振り回し続けて疲れが見え始めていた。距離を置いて警戒していた爪狼が襲いかかろうと重心を低くして動きを止めたときだった。

”ザクッ! ザクッ!”

 上方向から爪狼の右目に刺突剛糸のクナイ、左目には短剣が突き刺さった。悲鳴をあげる爪狼。
 イズハは木から飛び降りると、爪狼の特化した爪の両前足に輪にした糸を素早く通して軽く絞めた。そして暴れる盲目の爪牙を背にセキトモの元に向かった。

「セキトモさん。
 自分、力足りないかもしれないんで一緒に引いてくれるっすか?」
「はは。いいとも!」

ピン! ”バシュ!”

 イズハの仕掛けた糸により爪狼の両前足が切断された。爪狼は悲鳴をあげて更に暴れ出した。

「やっぱり凄いな、この糸」

「お、刺さったクナイが抜けたみたいっす。糸回収~っす。
 あとは任せていいっすか?」
「もちろんだ」

 セキトモが盲目となり両前足を失った爪狼にとどめをさした。
 爪狼は霧散していった・・・。

 残るはボス狼一体だ。

◆◇

 ボス狼と対峙しているトウマ、サイモン、カリーナ、バン。
 今は互いに距離を置いて警戒状態だ。しかし、ボス狼は左目、左前足、右脇腹を損傷し手負いの状態である。終局は近い。

 ボス狼は思った。
 先程の断末魔の叫び。
 あいつらも無事ではないだろう。
 やはりこの生き物たちは危険だった。
 関わるべきではなかった。
 今からでも遅くはない。
 隙を見て逃げて回復すべきだろう。
 機会を待て。

 バンがカリーナに言う。

「カリーナ、私たちはここまでのようです」
「ちっ、時間切れかい。この剣使わずに終わっちまったよ」

 トウマは慌てて抗魔玉を予備と交換した。

 サイモンは気を抜いたようだ。

「私も少々疲れました。選手交代ですね。あとは任せるとしましょう」

 三人は後ろに下がりボス狼から距離を置いた。サイモンは木を背もたれにして座ってしまった。

「ちょっ三人とも。俺一人でやれってんですか?」

 ボス狼は思った。
 何故だか分からないがあの生き物たちが引いていく。
 今なら逃げられる。

 ボス狼が後ろへ飛んで逃げようとした時だった。

「逃がすわけないでしょ!」

 ロッカが左目を失ったボス狼の死角になる岩陰から飛び出して来た! 回転しながらボス狼の背中を三連撃で斬る!
 背中を斬られて体勢を崩したボス狼に逆側から飛び出して来たギルが斬りこんだ!

「おらぁ!」

 ギルの剣がボス狼の右前足を大きく斬り裂いた!
 ロッカとギル、二人の武器が薄白く輝き炎ようにゆらめいている。

「ロッカ、体勢崩すんならこっちに倒せよ!
 仕留め損なっちまったじゃねーか!」
「こいつ左側損傷してんだからそっちに倒れるわけないでしょ」
「ああ、そうかよ。だがとどめは俺がもらうぜ!」
「させるか!」

 ロッカとギルは競い合うようにボス狼を斬り刻んでいった。

 タズが木に背もたれて座っているサイモンの横に来てちょこんと座った。

「もう終わっちゃうみたいですね?」
「タズ、無事だったか」

 トウマは剣を構えたまま目の前で起きている光景を見て呆然としていた。

「はは・・・」

 断末魔の叫びと共にボス狼は霧散していった・・・。

「最後、俺だったろ?」
「いや、私よ!」

 何はともあれ『牙爪狼討伐』成功だ!

◇◇

 イズハとセキトモはギルとロッカが援護に向かったのを知り、それなら大丈夫だろうと判断して仕掛けた予備の糸を一緒に回収していた。切れてはいなかったが随分絡まっていたようだ。

 結果、疲労している者はいるものの全員無事で重傷者は出なかった。一つ間違えば重傷者が出たかもしれない。だが、この戦いではサイモンとトウマの盾が使い物にならなくなったくらいで済んだようだ。
 立てていた戦略とは全く違う戦い方になった。何が起きるか分からないのがモンスター討伐というものだ。計画通りにいくことなんてそうあるものではない。

 今回の討伐で回収した戦利品。(スレーム・ガング)

【魔石・中】 2個
・・・牙狼と爪狼が落とした魔石。少し赤の不純物が混じっていたボス狼の魔石・中はロッカが「血が混じってるみたいで気持ち悪い」と言ってギルに譲った。ボス狼の魔石まで取るとスレーム・ガングで魔石を独占することになるので譲ったのだろう。

【爪狼の爪】 1個
・・・イズハとセキトモで斬り落とした爪狼の両前足のうちのひとつ。4本の繋がった爪の部分だけが残っていた。

【魔石・小】 5個
・・・道中に倒した小型の雑魚モンスター。

 討伐を終えた一同はオドブレイクに戻った。軽く昼食を取って街に戻る予定だ。

 ユニオン・ギルズは「遅れて到着するお前らを待ってギルドに寄るのは面倒だから」と討伐報酬の半額を立て替えて欲しいと言って二頭立ての馬車で先に戻って行った。報酬の立て替えはバンが対応した。おそらくまた酒場で昼間から飲むつもりなのだろう。

 スレーム・ガングの5人も一息ついて街に戻った。




※この内容は個人小説でありフィクションです。