スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第42話 最大の課題


 牙爪狼討伐を終えたスレーム・ガングの5人はギルドに寄った。

【牙爪狼討伐依頼 難易度B】
 討伐報酬 120万エーペル

【素材】
 爪狼の爪 10万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小 5個 2万エーペル
 魔石・中 2個 10万エーペル

 合計 142万エーペル。討伐報酬はユニオン・ギルズの分を立て替えているので実質は82万エーペル。一人16万エーペルを分配し、残りはパーティー管理費に回す。

 カウンターのおばあちゃんに報告したロッカはドヤ顔だ。

「本当にやってくれるとは頼んでみるもんだねぇ、感謝だよ。
 これであそこの山へ入れるようになるじゃろう。
 はて? あの山は何が採れるんじゃったかのう。
 忘れてしもうたわ。ふぁ、ふぁ、ふぁ」

 狼が狩場を移さないか心配だって言ってた気がするんですけど・・・。

 打ち上げをしようと酒場に行ってみると、やはりユニオン・ギルズは来ていた。
 合流決定!

 奥の部屋に通される途中で他の客から気になる会話が聞こえる。

「さっき大橋の工事が延長されたって聞いたけどマジか?」
「ホント、ホント。俺も聞いたよ。
 本来なら工事は明日で終わる予定だったのにね」
「まあ、大橋を渡って中央に向かうやつは少ないだろうし。
 金持ちの旅行客の帰りか討伐者くらいなもんだろ?」
「あとは業者かな? 中央からの仕入れが滞るくらいか」
「そうか。でも俺たちには特に関係ねーな。わはは」

 毎回ユニオン・ギルズが使っている奥の部屋に入った。

「おう! 遅かったな、お前ら今戻りか? 先にやってるぜ」
「お疲れ様でーす」

「一緒に打ち上げしようと思って来ちゃった。多分ここだろうと思ったわ」

「今日ここにお前らが来るか賭けてたんだ。俺の勝ちだな、サイモン。わはは」
「うむむ。やはり私の負けですね。
 実は私も来ると思っていたのですがそれだと賭けにならなかったので」
「しょーもな」
「師匠~」

 とりあえず狼討伐の成功を祝って乾杯した。

 ギルは大銀貨をテーブルに数枚置いて言う。

「あのボス狼の魔石だけで8万になったぜ。
 馬代引いて分け前は一人16万ってとこだった。お前らは?」
「うっそ、ほぼ一緒じゃない。私らも16万だったわ」
「そっちは五人で、だろ? お前らのほうが総額は多かったみたいだな」
「馬次郎のおかげで馬車代要らなかったし、モンスター素材もあったからね」

 サイモンは不満そうに言った。

「私は10万した盾がダメになりましたからね。大した儲けではないですよ。
 あのデザイン気に入ってたのにな・・・」
「そう落ち込むな、サイモン。
 損した訳じゃねーし、中央に戻ったらまた新調すればいいだろ?」

 バンが話に加わった。

「あ、中央と言えば。
 さっき他の客の方々が大橋の工事延長されたと言っていましたよ。
 ご存じでしたか?」
「「何だって?!」」

 ギルとカリーナが立ち上がり、すぐに大橋の情報を聞きに出て行った。

 しばらくすると、二人は肩を落として戻って来た。

「この辺にいた客に聞いてみたが大橋の工事延長マジな話なようだった」
「もう最悪、明後日には出る予定だったのよ」

「残念ね、滞在延長?」

「いや、いつ工事が終わるか分かんねえみてーだ。
 サイモン、タズ、明日船の手配すっぞ。大橋は諦めて船で中央に渡る」

「分かりました~。私、船乗ってみたかったんです~。楽しみ~」

 トウマはロッカに聞いた。

「俺たちはいつまでこの街に滞在するんですか?」

「そうね~、そろそろ中央に向かってもいいかもね。
 バン、大橋の工事が終わったら中央行き考えようか?」
「そうですね。いいと思います」
「やった! ついに中央だ」

「お前らも戻るか。先に行って待ってるぜ」

「あ、そうだ。
 もうこの街に来て一週間になるから明日はオフにしようよ?」
「そうですね。
 毎日のように討伐に出ていましたのでたまには休みにしましょう!」
「やった! 何しようかな?」

「セキトモさんは何するっすか?」
「う~ん。僕はまた温泉にでも行こうかな? 今度はゆっくりと」
「?」

 しばらくして、ユニオン・ギルズにお別れの挨拶をして解散した。

翌朝-----。

 執事のホラックがトウマの部屋にやって来た。

「トウマ様、お荷物が届いております」

 俺に荷物? 何だろ?

 トウマはすっかり忘れていたようだ。
 届いた荷物の差出人は博士だった。

「やっと戻ってきたー、俺の剣!」

 トウマはお礼を言うと、ホラックは微笑みながら去っていった。

 トウマはワクワクしながら荷物を開封すると中には2スロットの剣、真魔玉【赤】、2枚の紙が入っていた。紙のひとつは手紙、もう一つは図解つきの説明書みたいなものだった。剣は見た目でも分かるくらい別物に変わっていた。

 手紙の内容を要約するとこうだ。

 思ったより手間取った。
 最終的に刀身以外は全部変えた。
 使い勝手の報告を頼む。
 使い方は同封した説明書を見ろ。

 トウマは部屋で試すのは危険なのでとりあえずもろもろ持って裏庭に行った。

 トウマは裏庭に着くと剣に抗魔玉と真魔玉【赤】を装着した。2つあるスロットの片側、真魔玉を着けるほうの造りが少し変わっている。どちらに着けてもいいわけではないらしい。

「なるほど、ここを押してスライドさせると炎熱剣になるってことか。
 戻すときは逆ね」

 博士が改良した剣は真魔玉を着けたまま手元で通常と炎熱剣の切り替えを出来るようにしたものだった。切り替えた際に真魔玉の力が瞬時に刀身に伝達するようだ。
 戦闘中に持ち手の指一本の動作で切り替えが可能なのは大きい。

 トウマは薪が吹き飛ばないように固定して試してみることにした。
 消火用の水も忘れずに用意した。
 まずは通常状態で薪の上側を斜めに斬る。斬り終わりに手元の親指でスライドさせて炎熱剣に切り替え。最初なので斬り返しはゆっくりな動作だが炎熱剣!

 剣で斬った薪が炎上した。

「これは使えるぞ、凄い! さすが博士だ」

 イズハがトウマのすぐ隣に来ていた。
 トウマはもういきなり現れるイズハに慣れたようだ。

「発火する剣っすか?
 前にトウマさんが使ったの1回見たことあるっすけど、やっぱり凄いっすね」
「イズハ、見たことあるって・・・熊のときか」

 モンスター相手にはあのときしか使ってないもんな。
 随分使ってた気がしてたけど炎熱剣は実戦で1回しか使ってなかったじゃん。

「あれから見て無かったので違う原因で発火したのかと思ってたっす」
「博士に改良してもらってたんだ。
 あのときとは違って今は自在に切り替えできるようになったよ。
 この技は炎熱剣っていうんだ」
「へ~、武器の改良もしてもらえるっすか?」
「イズハも改良してもらう?」
「自分はまだいいっす。糸の回収は面倒っすけど改良で手放したくないっすね」

「そっか。代用がないと自前の短剣だけに戻っちゃうもんな」
「それより、火消さなくて大丈夫っすか?」
「うわっ! やばっ、早く言ってよ」

 トウマは慌てて炎上している薪の火を消した。

 その後、しばらく炎熱剣の練習をしているトウマをイズハは見ていた。

「剣を使わないときは布か何かで軽く柄の部分を覆い隠してたほうがいいかもっすね? 変わった形状っすから目立つかもっす」
「だね、真魔玉もつけっぱなしでOKになったしこれは目立つよな」

「ところでトウマさん、使用した武器の報告書って書いてるっすか?
 自分どう書こうか悩んでるっす」
「あ、そうだった!
 そう言えば報告しなきゃいけないんだった。俺もまだ書いたことないんだ」

「期限とかないんっすよね? でも、経過報告は必要かなと。
 最初の使用感とか忘れないうちに書きとめていたほうがいいっすよね?
 自分、観測者の報告まとめるの苦手だったんっすよ」

「やばい、俺の最大の課題が発覚した」
「ぷっ。トウマさんもっすか? あはは」

 そのあと二人は使用した武器についての報告書の書き方をおさらいし、現状をまとめるのに一日中苦悩することになった。お互い苦手なようでお粗末な内容なのは間違いない。

 バッって変えてズバッと斬って燃えて凄かった。
 シャシャてやれて自分にピッタリっす。
 とか書いている時点で二人にはいずれ教育的指導が入ることになるだろう。

 セキトモは予告通りのんびり温泉に行ったようだ。爽やかな顔をして帰って来た。

 ロッカとバンはアーマグラスの街のスイーツ店めぐりをしていたようだ。満足したようで笑顔で帰って来た。




※この内容は個人小説でありフィクションです。