スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第3話 付与する能力


 トウマはロッカとの待ち合わせ場所に向かっているが治癒の薬の代金を支払う為なので足取りは重い。トウマはこのままロッカに会わずに逃げてしまおうとも思った。

 これがデートだったらウキウキなんだろうけどな。
 あのスライム戦を見た感じロッカを怒らせたらヤバそうなんだよな・・・。

 トウマは待ち合わせ場所の中央通り換金所前に着いたがロッカの姿はまだ見当たらない。今は人通りが少ないようでロッカが来たらすぐに見つけられそうだ。

「すみません」

 トウマは一人の女性に声をかけられた。心地よい声質、色白で透き通った目をした可愛らしい小柄な少女だ。彼女は濃く暗い青色、暗い緑にも見えるような深藍(ふかあい)の長い髪をお団子にして束ねておでこを出している。ロッカよりは少し背が高い152cm。

「ロッカと待ち合わせしている方でしょうか?」
「はい、ロッカと知り合いの方ですか? 俺は『トウマ』といいます」

 彼女は慌てて話し始めた。

「私は『バン』という者でして、ロッカに頼まれてあなたを待っていました。
 良かった、見つけられて。ロッカは少し遅れるそうで彼女が来るまで・・・その~、あなたを捕まえておくようにと」

 犯罪者かなんかですか、俺は。

 バンはトウマの剣を不思議そうに見て問いかけた。

「トウマさんはモンスター討伐初心者とロッカから伺いましたが、その剣は?」
「これですか? これは俺が村を出る時、じいちゃんが餞別でくれた物です」
「そうなんですね。2スロットタイプの剣はこの辺では手に入らない物なので何故持っているのか気になってしまって」

 ですよね~、鍔の装飾部分にある穴が抗魔玉用のスロットって事すら知りませんでした。しかも穴2つ空いてるし。

「初心者には分不相応な剣みたいですよね?」
「い、いいえ。そういう意味では・・・」

 沈黙・・・。

 バンさんとの会話が続かないよ。
 そもそも初めて会った人と話すの得意じゃないんだよなぁ。

 堰を切ったようにバンが話し出した。

「あ、あの。ロッカとはどういう経緯でお知り合いになったのですか?」

 あ、これなら話せる。

 トウマはスライムを分裂させたところからロッカに抗魔玉について教えてもらい、スライムを初討伐して、最終的にロッカに助けられた事を話した。

 ん~、我ながら間抜けな話だった。

「そうでしたか。あのロッカがそこまで面倒見るなんて思いもよりませんでした」

 ん? どのロッカ?
 あれは面倒見てくれたって事なのだろうか?
 けっこうバカにされてた気もするけどいろいろ助けてくれたのは事実だし、そうかもな。

「では、私からも一つ」

 そう言うとバンは腰あたりから棒のような武器のロッドを取り出し、トウマのスライムに溶かされた皮膚の怪我が残っている部分にかざした。
 ロッドの先に着いている水晶のようなものが緑の光に包まれている。すると、みるみるトウマの皮膚の怪我が治っていった。

「え?! 凄い。傷が治っていってますよ。何ですかこれ?」

「これも抗魔玉による力です。正確にはもう一つ、『真魔玉(しんまぎょく)』が必要ですが」

 バンが持つロッドの装飾部分と思われる所に2つのスロット。一つは白い抗魔玉、もう一つは緑の抗魔玉?が装着されているようだ。

「その緑の玉が真魔玉というものなんですか?」

「はい。色付きの物は珍しく真魔玉といいまして、抗魔玉の力に別の能力を付与出来ます。このロッドに着けてあるのは真魔玉【緑】(しんまぎょく・みどり)
 仕組みは理解出来ませんがこの緑の光には治癒の能力が付与されています」

「凄い事が出来るんですね。
 ん?! ちょっと待って下さいよ。玉を2つ着けるということは俺の剣も?」

「はい。2スロットタイプなので真魔玉があれば別の能力、それを付与することが可能です」

 なんてこった!
 じいちゃん、そんなすげー剣くれてたのかよ。

”ドン!”

 目の前の換金所の扉が勢いよく開いた。

「全く~、ここは魔石の換金率悪いわね!」

 ロッカが現れた!

「あ、ここにいたのね。ちょうど良かったわ」

 いやいや、ロッカがここを待ち合わせ場所に指定したんでしょ?
 まさか換金所の中にいたとはね。

 ロッカはトウマをチラリと見たあとバンに言った。

「ちゃんと捕まえられたようね。じゃ、トウマのおごりでご飯行くわよ」
「え?!」
「では、行きましょうか」

 ロッカは意気揚々と肩を揺らしながらリズミカルにどんどん先に歩いて行った。
 トウマはバンに引っ張られるようにして飲食店に連れて行かれた。



”ムシャ、ムシャ”
”モグ、モグ”
”ゴク、ゴク”

 それにしてもよく食うな二人とも。これ何皿目だよ?
 ロッカのやつ、店にあるメニューを片っ端から注文して。

「トウマ、あまり食べないのね? もっと食べなさいっ」
「そうですよ、トウマさんは育ち盛りなので食べないと成長出来ませんよ」
「はぁ・・・」

 俺もよく食べるほうだけど全部自分がおごるとなると控えたくもなるよ。
 あんま高いの注文しないでくれぇ~。

「ロッカ、これもおいしそうですよ」
「じゃこれも注文しようか?」

 バンさ~ん! もうやめてぇ~。

 最終的にはトウマもやけ食いして会計 32,700 エーペルの出費。チーン。

 所持金の半分以上もっていかれた。
 トホホ、これから生きていけるだろうか・・・。
 すぐにでも稼げるようにならないと。

「あー、うまかった! やっぱおごりで食うご飯は最高よね!」
「私までご馳走になり有難うございました」
「いいの、いいの! トウマは私に借りがあるんだから!」

 この女・・・。

「じゃ、次行くよ!」
「え?!」

 先を行くロッカを追いかけてトウマはまたバンに引っ張られ連れて行かれた。

 まだどこか行く気なのかよ? 勘弁して欲しい。
 ちょっ、バンさん力強くない?

「ここね」

 ロッカが入っていった建物はこの街のギルドだった。ここは討伐者がクエストというモンスター討伐依頼を受ける所だ。モンスター討伐を生業としている討伐者は皆、登録している。というかギルドに登録している者が『討伐者』と呼ばれるのだ。
 トウマはバルンバッセの街に来た時すぐに登録に行った。しかし、モンスターを倒した事が無いと言ったらすぐに追い出されてしまったのだ。

 でも今は違うぜ!
 俺もモンスター討伐したもんな。スライム一匹だけど堂々と入れる。

 ギルドは厳つい顔をしたゴロツキのたまり場ではない。むしろ二人の可愛らしい女のコが来ていることで和やかな雰囲気すらある。
 トウマと目を合わせた男だけが、あん?何でお前が二人も女をはべらせてるんだよって顔をするだけだ。

 トウマはカウンターにいるオッサンに声をかけられた。おそらくこのギルドのマスターだろう。

「おう。お前、この前来てたボウズじゃねーか? おっ、登録するか?」

 そういう事か。今、これ見てたよな?
 この前は抗魔玉持ってなかったから問答無用で追い出されたのね。
 それくらい教えて欲しかったな~。

 トウマは討伐者登録の用紙に記入を終え、しばらくカウンターで待つ。ロッカとバンはクエストの掲示板を見ているようだ。
 トウマはカウンターの奥にデカデカと飾ってある文言が気になった。

 《討伐者の物を奪う者 全てをもって血の海に沈めるべし》

 あれ何なんだろ?

 バンがこちらへとやって来て察したようにトウマに説明した。

「ああ、あれですか。鉄の掟です」
「鉄の掟?」

「あれは討伐者から物を奪った者は他の討伐者から命を狙われる事を指しているんですよ。あの掟ができてから金品を略奪する者はいなくなったとか。
 もし何か奪われた人がいたらトウマさんも協力しなければなりませんよ」

「そうなんだ、鉄の掟か・・・」

 カウンターの奥の部屋からオッサンが戻って来た。

「ほらよ、このタグをいつも身に着けときな。
 名前が刻んである。お前が死んだら分かるようにな!
 まぁ、モンスターに丸飲みにされたら分からんがな、ガハハ」

 人の生死を笑って話せるんだからこのオッサンもどっか壊れてるんだろうな。

「登録は済ませたようね」

 ロッカもやって来てトウマが受け取ったタグを見るやいなやカウンターに何やら記入しに行った。

「これでお願い」

 ロッカはカウンターのオッサンに書類を渡し、すぐに戻って来た。どうやらパーティー申請をしたらしい。

「これで私たちは同じクエストをパーティーで受注出来るわ。
 お金が必要なんでしょ? 私たちが協力してあげるわ、報酬は3等分ね」

 おお~、懐事情がさみしい俺には有難い話だ。少し身体が軽くなった気さえする。
 てっきりまだたかられるのかと思っていたし、俺そんな貧乏くさい顔してた?

「さあ、行くわよ。バンも早く来て!」




※この内容は個人小説でありフィクションです。