スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第43話 解消した二人の悩み


 この日、トウマ、ロッカ、イズハの三人は『角牛討伐』に出向いている。難易度はDだ。今回、バンとセキトモは不参加。二人はトウマの炎熱剣の実戦練習という話を聞いて三人いれば問題ないだろうと判断したようだ。

「あの牛どう見ても巨大ですよね? あれが難易度D?」
「元の牛が巨大サイズなんだから大きさ的には擬態元と同じなんじゃない?」
「あの大きさを取り込めるスライムって・・・」
「まったく。スライム大きくなるまで放置し過ぎなのよ」

「あの牛、前に突き出してる角が異様にでかいっすね?」
「トウマ、今回の目標はあれにしよう。炎熱剣の実戦練習に丁度いいでしょ?
 私とイズハがおとりになるからあの角2本落としてみて」
「マジ?」

「あの角刺さったら軽く死ねるっすよ。トウマさん、お気をつけて」

 もう、他人事だと思って怖い事言う~。

◇◆

 バンは今、博士の邸宅の自室に籠っている。管理を任されているパーティー管理費とメンバーの生活管理費の帳簿を書き終えたところだ。

 バンは所持金の100万エーペル以上をギルドに預けて来た。

 ギルドは10万エーペルからお金を預かって貰える。世界中の街にあるギルドは提携していてどのギルドからでも預けたお金を引き出せるのだ。ギルドがすぐに用意できない高額を引き出す場合は事前に申請する必要がある。パーティー名義で預けることも可能だ。現状はギルドに登録している討伐者限定の仕組みだ。
 討伐者の死亡が確認されると預けられたお金の受取人はギルドになる。資産相続なんてものはない。それもあってか利用手数料は無料だ。
 ギルドが受け取った資産を何に使っているかというと、引き受け手の少ないクエスト報酬に補助金をつけたり、祭りで魔石2倍買い取りのイベントなどだ。決して受け取った資産で至福を肥やしている訳ではない。

 トウマたちも大金を持ち歩くわけにはいかないので資産の大半はギルドに預けている。かさばるのもそうだが盗まれたり失くしたりしたら今までの苦労が台無しになるからだ。高額を稼いだ討伐者は大抵預けているだろう。

 バンは一仕事終え、紅茶を飲んで一息ついた。

「このくらいの費用を所持していれば当面は大丈夫かな?
 次は三刃爪の評価報告書を書かないと」

 バンは悩んでいた。

 三刃爪は使いやすい。でもそれは私にとってはですからね。
 欠点は爪が三本あることで細い関節などは狙って斬ることができないこと。
 それに並みの討伐者では重くて使いづらいかも知れません。
 力が強い人ばかりではないので軽々と振れないと売れないでしょう。
 贅沢を言えば甲の部分に盾を装着できるようにして欲しいかな?
 でも盾をつけると更に重くなってしまいますね。
 巨大爪猫戦のときに爪の攻撃を三刃爪で受け止めて強度は確認できました。
 でも、もしそれで武器が壊れてしまったら?
 そのあとは攻撃手段として使えなくなってしまいます。
 モンスターの攻撃を武器で受けるのはあまり宜しくないですね。

 バンは狭い部屋の中を腕組みしてうろうろしながら考えた。

 メイン武器にしなければよいのでは?
 今は両方ですがもう少し爪を軽くして盾を装着できるようにしたら?
 そうしたら盾としても使えるサブ武器になるのでは?
 両爪じゃなくて片爪。メイン武器は別に持って貰えば。
 これで博士に提案してみよう。

 悩みは解消したようだ。バンは三刃爪の評価報告書を書き始めた。

 のちにこの提案が採用され、市場にサブ武器として三刃爪の完成形が出るのだがそれはまた別の話である。

◆□

 セキトモは博士の邸宅の裏庭にグレイブを持って来ている。

 セキトモはグレイブを構え、目を閉じたまま微動だにしていない。

 セキトモは悩んでいた。

 トウマとタズが見せた抗魔玉の力の解放。
 ロッカ、バン、ギルは当然のように力を解放するから参考にできない。
 タズは解放する前に目を閉じていた。
 そこに何か秘訣があるのかもしれない。

 セキトモは試しに目を閉じてみたものの時間が過ぎるばかりで何も起きそうになかった。

 モンスターと対峙しているとき、こんな風に目を閉じれるか?
 そんな自殺行為、僕にはとても真似できない。
 他に何かないのだろうか?
 二人の共通点を探そう。

 セキトモはグレイブを鞘に納め、トウマとタズが力を解放したときの状況を思い浮かべた。

 そういえばどちらも解放する前に力を抜いた状態だった気がする。
 もしかして、力を抜く?
 そこに何かヒントがあるかもしれない。

 もう一度グレイブを鞘から抜いたセキトモは息を吐き、力を抜いてみた。
 しかし、何も起きない。

「これでもダメか・・・」

 それに力を抜くとグレイブは重過ぎて武器として扱えない。
 まずは小枝を振るようにグレイブを扱えるようになるのが先か。
 狼との戦いでは振り回し5分ほどで疲弊してしまった。
 イズハの援護がなければ危なかったかもしれない。
 少なくとも抗魔玉の力が使える20分は振り回し続けられるような体力、そして筋力をつける必要があるな。
 トウマだって毎日のように鍛錬を欠かさない。

「うん、力の解放ばかりに囚われていてもダメだな。
 先を見据えてやることは決まった」

 そこからセキトモは何か吹っ切れたように全身強化の鍛錬を開始した。

□◇

 角牛討伐を終えて邸宅に戻ってきたトウマ、ロッカ、イズハの三人はラウンジで寛いでいた。誰も負傷しなかった。成果としてはこうだ。

【角牛討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 10万エーペル
【素材】
 角牛の角 2本 6万エーペル
【魔石換金報酬】
 魔石・小 1個 4千エーペル

 三人で一人5万ずつ分けて残りはパーティー管理費に回した。

「闘牛みたいで楽しかったわね?
 あの牛、興奮して真っすぐ突っ込んで来るんだもん。
 紙一重でヒラヒラかわしてスリル満点だったわ!」
「目標にしてた角2本とも炎熱剣で斬れましたけど、俺は必死でしたよ」
「トウマ、私見てたわよ。
 目隠し用に剣の柄に巻いてる布取るの戸惑ってたでしょ?」
「げっ?! ロッカ見てたの? 恥ず・・・」

 二人が引き付けてくれてて助かったけど、さっと取れるように巻き方工夫しないとダメだな。

「でも、まさかおびき寄せてぶつけた岩に角が刺さって動けなくなるとは思ってなかったっすよ。岩より角のほうが強かったっすね?」
「トウマが角斬るまであの牛動けなくて間抜けだったわ。あはは」
「でもあれだと動いてない的を斬るのと変わらないんじゃ?」
「今回はいいんじゃない?
 モンスター相手にああいう戦法もあるって分かったわけだし」

「う~ん。そうですね」
「あの状態に持っていけたら自分の刺突剛糸の糸を通すのも楽勝っすよ!」

 三人が談笑しているところに何かスッキリした顔でバンがやって来た。

「皆さん無事だったようですね?」
「バン、聞いて聞いて!」

 バンを交えて改めて角牛討伐の話になった。トウマが一番間抜けだったという話。ロッカに少し盛られた。

「そう言えばセキトモさんは?」
「ああ、先ほどまで裏庭で何かされていたようですよ。
 今シャワー浴びているのではないでしょうか?」

 しばらくして、セキトモがやって来た。

 どう見ても討伐に出ていた三人より消耗しているセキトモだった。でも、何だか顔はスッキリした表情だ。

「痛てて、座るのもきつい。
 完全に筋肉痛だよ。鍛錬やり過ぎたかも? はは」
「慣れれば筋肉痛も心地よい感じになりますよ」
「トウマは若いから僕より回復が早そうだな?」
「セキトモさんもまだまだ若いでしょ。
 俺は一晩寝たら次の日には大抵軽くなってますよ」
「うらやま」

◇◇

 この日、夜遅くに雨が降り出した。
 わずかな時間ではあったが豪雨となり雷の音と光が凄かった。就寝している時間だった為、誰も邸宅内の電気が使えなくなった事に気づいていなかった。




※この内容は個人小説でありフィクションです。