スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第44話 停電をおこしたのは


 朝、トウマとセキトモはラウンジで昨夜の豪雨について話していた。

「昨日の夜、雨音凄かったですね?」
「僕は雷の音でビックリして一回起きたよ」

「祭りありますかね?」
「豪雨だったとはいえ短時間の雨ではないんじゃないかな?
 まだ曇ってるからまた雨降る可能性はあるけどね。予報見てないからな~」

「あれ? なんか邸宅の中暗くないですか?」

 トウマが周りを見回し天井の照明が点いていないことに気づいた。代わりに普段使われていない壁に設置してあるランタンに火が灯っている。

「夜中に停電になったらしいよ」
「停電か~、こっちに来て初めてですよね? バルンではなかったのに」

「バルンでも頻繁にあったよ。気づかなかったの?」
「あ、俺の借りてた宿の部屋、明かりは油を使うランタンだった」

 皆がラウンジに集まって来たところでロッカはホラックに聞いた。

「ホラック、停電で影響あるのって明かりだけ?」
「食材を保存している冷蔵庫は影響あります。あれは電気を使っておりますので。今は氷を入れておりますのでしばらくは大丈夫かと思いますが」
「そっか、少し暗いだけならいいか。ありがとう」

 地下水をくみ上げてタンクに水を溜めるのに電気モーターを使ったポンプがあるが、この邸宅では日々身体を鍛えるのに丁度いいというホラックの考えで手動でのくみ上げ式のままだそうだ。なので水は問題なく使えるようだ。

2時間後-----。

「まだ点かないですね」
「復旧遅すぎよね。もしかしてモンスターに発電施設やられたんじゃない?」

 ホラックがやって来て時間を確認した。

「停電を確認してから8時間以上経ちましたので旦那様が不在の際の特例事項に沿って電気の供給を開始致します。もうしばらくお待ち下さいませ」

 すると、ホラックは立ち入り禁止の地下室に降りて行った。
 しばらくして、邸宅内の照明が点いた。

「おお、点いたー!」
「やっぱりあるとないじゃ、明るさが全然違うわね」

 地下室から戻って来たホラックは照明を見上げて言った。

「この電気は自家発電によるものです。
 普段は旦那様の研究用に使う電気なのですが今回は特別に切り替えています」
「自家発電?」
「やっぱり、博士ただもんじゃないね」

「地下室の中見てみたいっすよね?」
「ダメよ、地下室は私たちでも簡単には入れてくれないんだから」
「ロッカ!」

 バンが止めるがもう遅い。トウマにも分かったようだ。

「ロッカ、今、簡単にはって言ったよな?
 ということは入ったことあるんだな?」
「あっ? それは・・・って教えるわけないでしょ」

 バッサリ話を打ち切きると、ロッカは話をそらした。

「よし! ちょっとギルド行ってくるわ。
 停電の影響がモンスターによるものか確認しなきゃ。イズハ付き合いなさい」
「分かったっす。じゃなくて、ハッ、お供するでござる。だったっすかね?」
「ぷっ、その話し方はもういいわ。早く行くわよ」

 ロッカとイズハはいそいそと出かけて行った。

「俺たちはどうします?」
「僕はそうだな~。意外と筋肉痛とれてきたからまたトレーニングしようかな。
 トウマ付き合ってくれない?」
「いいですよ。バンさんはどうします?」
「私はホラックさんの手伝いをしようかと思います。料理も教えて欲しいですし」
「じゃ、ロッカたちが戻ってきたら教えて下さい」

 二人は裏庭に行き、セキトモはトウマを背中に乗せて腕立て伏せをした。

「うおお。セキトモさん、やっぱ凄い力ですね!」

 しばらくしてロッカだけが邸宅に戻って来た。
 ロッカの話によると停電の原因となったクエストが出たそうだ。
 海岸沿いにある風車のひとつが海のモンスターにやられたらしい。風車が一基壊れても接続を切り替えれば停電は直るそうだがそれをモンスターが邪魔していて切り替えに行けないとか。

「海のモンスターって陸にも出るんですか?」
「異例だと思うわ。昨夜の豪雨で打ちあがったんじゃない?」
「通常は考えられませんね」

 討伐対象となる海のモンスターは『巨大触手(ダコ)』だ。弱っているように見えるが人が来ると触手で攻撃して来るらしい。難易度はBだ。すでに何人かの討伐者が討伐に向かったらしい。
 しかし、ロッカの見立てではその人たちでは難易度Bのモンスターは倒せないと踏んでいるようだ。弱っている情報があるとはいえ難易度がBに設定されていることを分かっていないとか。

「海のモンスターなら漁師専属の討伐者に任せてもよいのでは?」
「それがそうもいかないみたいなのよ」

 昨日、中央大陸に向かっていた船が何艘か海のモンスターによって沈められたらしい。生存者がいるかどうかは不明。おそらく生き残りはいないだろうとのこと。
 そのモンスターは『巨大背ビレ刃鮫』 難易度B。漁師専属の討伐者たちはそっちのモンスター討伐に総出で向かったとのことだ。
 通常は船に紐で取り付けた抗魔玉付きのモリでモンスターを刺して仕留めるらしい。漁師専属の討伐者はほぼ元漁師または漁師兼任。筋肉隆々の猛者たちだが海上のモンスターを優先するようだ。

 話を聞いて皆があることに気づいた。

「ギルたちって船で中央に向かうって言ってた気が・・・」
「大丈夫かな?」
「あいつらのことは無事を祈るしかないわね」

 別の情報として大橋の工事延期はモンスターによる橋の破壊だということが分かったらしい。破壊の痕跡から夜間にモンスターが暴れていると断定されたので近いうちにどんなモンスターが悪さをしているのか判明するだろうとのことだ。

「タコのほうはイズハに状況を見に行ってもらったわ。
 とりあえず、イズハが戻るまでここで待つわよ。
 一応、いつでも討伐に出られるように準備だけはしておいて」

「僕は今回余り役に立てないかも。
 さっきトレーニングしちゃってさ、すでに腕と胸が筋肉痛・・・」
「仕方ありませんね。トウマさんは大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫です。セキトモさんに乗っかってただけなんで」
「分かりました。まだ時間がありますし、今回は特別ですよ」

 そう言うとバンは部屋から癒しのロッドを持ってきた。軽い筋肉痛くらいならすぐ治せるようだ。

「これって筋肉痛でも治せるんだな。バン、ありがとう」
「どういたしまして。でも多様すると副作用があるかもしれませんので」
「え?!」

「筋肉痛程度で多様する人はいないので確認しようがないですけどね。うふっ」
「何? ちょっと怖いんだけど。大丈夫だよね?」

 お昼を過ぎた頃、タコの状況を見に行ったイズハが戻って来た。

 イズハの情報によると討伐に向かった討伐者たちはロッカの予想通り返り討ちにあったようだ。一人がタコの触手に巻き付かれて、その触手を集中攻撃して1本落として捕まった人を救出できたが結果的に重軽症者多数で逃げ帰ったとのこと。

「自分は遠くの岩陰から観察してただけっすけど。
 あの人たちがタコの触手を1本落とすところまではまだよかったっす。
 そのあとタコが不意打ちで周囲に墨を吹きかけて全員大混乱だったっす。
 あとは触手の横殴りで次々に吹き飛ばされて・・・悲惨な結果っす」

「やっぱりダメだったようね。タコの足って何本あったっけ?」
「確か8本では?」

「軟体生物なので斬りづらいかもしれないっす」
「表面ヌルヌルしてそう。キモっ」

 セキトモは疑問に思ったことを言ってみた。

「そのまま放置してたら海に帰るってことはないかな?」
「陸上で生きていけるとは思えませんのでいつかは海に帰るでしょうね」
「海に帰るまで待つってのもありだけど、海にいるタコは倒せる気がしないわ。
 逃がすと海上での被害が大きくなると思う」

「なるほど。今が倒す絶好の機会でもあるわけだ。
 ここで倒したほうがよさそうだね」
「では倒す方針として、吹きかけてくる墨の対策はどうしましょうか?」

「ホラック、大き目の傘5本用意できる?
 どうせ墨で汚れるだろうから黒っぽい傘がいいかも。
 使い捨てる可能性高いから安物でいいわ」
「かしこまりました。ご用意しますのでその間に皆さまは昼食をお取り下さい」

「ありがとう。じゃあ、私たちはタコ討伐の作戦を練るわよ」




※この内容は個人小説でありフィクションです。