スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第45話 風車に絡まるタコ


 スレーム・ガングの5人は海岸沿いの風車近くまで来ていた。左側を少し見上げると何十年もの歳月をかけて作ったであろう大橋が見える。近年の補強工事で上部は鉄筋、コンクリートを使い出しているが下側は石造り。100m間隔くらいで大きな支柱に支えられた美しいアーチ状の橋だ。
 空はまだ曇っているので見えるのは美しい海とは言えず荒れた波の音が聞こえる。

 巨大触手(ダコ)はまだ海に帰ってはおらず、一番手前にある端の風車にうねうねと絡みついていた。弱っているせいなのか触手の1本は切断されたままで再生していないようだ。

 ロッカはタコの姿を確認するなり引き付け役をかって出た。

「やっぱりキモいわね。
 あの大きさだと私の短剣じゃ何度も斬る必要がありそうだわ。
 タコの足の切断はトウマ、セキトモ、イズハに任せるからね」

 バンも同様に三刃爪は切断に向いていないと判断して炎のロッドか水のロッドのどちらかを使うことを検討した。結果、広範囲切断系の水のロッドでとどめを刺すことに決めたようだ。
 炎のロッドを使えばタコ焼きの出来上がりだ。だが炎を使うと発電施設の配線まで燃やすことになりかねないので消去法で炎のロッドは使わないことにしたようだ。

「まずは距離を置いた状態で墨を吐かせましょう。
 溜まった墨を出し切ったらしばらくは吐かないと思います」

 ロッカとイズハは傘ではなく合羽を用意して貰った。傘を持ったままだと動きづらいというイズハの意見で急遽2着だけ用意して貰ったのだ。
 身軽なロッカとイズハでタコを挑発して墨を吐かせ、残る三人は少し離れた位置でタコが墨を吐くまで待機といった感じだ。
 タコが墨を吐き終えたら攻撃に転じ、邪魔になる触手を斬り終えたらバンがとどめをさす予定。

「作戦通り行くわよ」
『了解!』

 いつも通り討伐は短期決戦だ。
 ロッカとイズハがタコに向かって行った。
 イズハは石ころを拾いタコに投げつけると、石が当たったタコが二人の接近に気づいて眼を赤く変えた。二本の直径1mはありそうな巨大な触手が二人をそれぞれに襲った。二人は叩きつけるようなタコの触手攻撃を難なくかわすが叩きつけられた地面は凹んだ。

 トウマたちは傘を構えてその様子を見ていた。

「あれくらったら痛そうだね?」
「俺、潰されちゃいますよ」
「今は一本ずつですが二本同時でこられたら心配ですね」

 イズハは更にタコを挑発した。

「こっちっすよ!」

 タコの2本の触手がイズハに向けて振り下ろされた。イズハは何とかかわすが明らかにヤバかったという表情をした。

 でも、なにか変だな?
 イズハがあれだけタコを挑発しているのに追いかけて来ないって。

 ロッカはタコの触手をかわしながら接近して最短距離で風車の裏側に回った。裏側は海岸沿いで崖のようになっている。その先は海だ。

 少しロッカの笑い声が聞こえた気がした。

「ロッカ、裏の海側に回りましたけど何かあったんですかね?」
「さあ?」

 イズハはタコの触手攻撃が3本になって襲われ出したが、悲鳴をあげながらもなんとか攻撃をかわしているようだ。

 ロッカは一旦トウマたちがいる所に戻ると、笑いをこらえながら話した。

「あのタコ風車を通して2本の足が絡まってるし。
 ぷっ、あそこから動かないわけだわ。あはは」
「え?」

 一旦、イズハを呼び戻して全員集合。
 そのまま放置していても絶命するのでは?という話にもなったが、絡まった触手が解ける可能性もある。
 ということで若干作戦を変更して討伐継続だ。絡まった2本の触手は使えないだろうから実質相手どるのは触手5本だ。
 タコは動けないと分かったので触手が届かないギリギリまで近づくことにした。

 皆が距離を縮めたことでタコは更に怒った。タコの触手攻撃の激しさが増す。
 イズハもこれ以上は無理と判断したのか触手が届かないところまで距離を空けた。
 すると、タコが今までと違った動きをし出した。それにいち早く気づいたロッカは皆に声をかけた。

「くるわよ。たぶん墨!」

 一同、身構えた。ロッカとイズハは顔を両腕で塞ぎ、傘を持ったトウマたちは正面に傘を盾にした状態で構えた。次の瞬間。

”ドババババ・・・!”

 タコがありったけの墨を周囲にまき散らした。砂利が飛んで来たと思えるくらいの重みのある衝撃だ。持っていた傘は所々骨が折れたようで使い物にならなくなった。
 タコはまだ墨を吹き付けようとしているがもう出ていない。墨は涸れたようだ。
 ロッカは真っ黒になった合羽を脱ぎ捨てた。

「もう、きったないわね。さあ、今度はこっちの番よ!」

 それに呼応して全員が動き出した。
 バンは水のロッドのチャージを始めた。
 セキトモは正面からタコに突っ込もうとしたが、左側にいるイズハに呼び止められてイズハのほうに向かって行った。
 ロッカとトウマは逆の右側に走った。

「トウマ、バンの攻撃のお膳立てするわよ。邪魔な足斬っていって!」
「簡単に言ってくれますね。やってみます!」

 まずは1本目とばかりにロッカはタコの触手攻撃を誘った。叩きつけた触手をかわしマーキングするかのように触手に切り込みを入れる。

「そこ斬って!」

 すかさず、トウマは斬り込んだ。ここは炎熱剣だ!

”ジュバン!”

 触手1本を見事に切り落とし成功! あと4本だ。
 すると、イズハがトウマの元に走って来た。

「トウマさん、一緒に引いて下さい!」

 トウマはイズハに刺突剛糸の糸を渡された。反対側にいるセキトモが先端のクナイのほうを持っているようだ。

「「せーの!」」

ピン! ”バシュ!”

 タコの触手を2本切断!

「意外と軽かったっすね。ここの地面柔らかいのであっち側を持って貰ったっす」

 タコは軟体なので刺して固定するところが無い。地面にも刺して固定できないのでセキトモが糸の端の固定役になったようだ。触手は残り2本だ。

 バンの水のロッドの威力で糸を切られたくないという思いがあるのだろう。イズハは急いで糸の回収に回った。
 セキトモはタコがもがいている隙にイズハにクナイを返し、トウマと合流しようと向かっていた。

「トウマ、屈んで!」

 トウマはセキトモに言われるがまますぐさま屈んだ。走って来たセキトモはトウマを守るように大盾を構え、少し傾けて地面に置いた。
 次の瞬間、タコの触手の横殴りが大盾に当たり衝撃音が走った。

「ぐっ! 危なかったな。何とか衝撃はそらせたみたいだ」
「あぶねー、助かりました」

 ロッカはトウマに罵声を浴びせた。

「トウマ、何やってんの! 死にたいの?」
「すみません!」

「あの横殴りはヤバいな。斬るなら叩きつけの後だね?」

 そう言うと、セキトモはロンググレイブに切り替えた。重撃飛槍は刺突攻撃なので軟体には効果が薄いと判断したのだろう。

 ロッカはまた触手の叩きつけを誘った。叩きつけられた触手をかわし、再びマーキングするかのように触手に切り込みを入れる。

「セキトモ行って!」

 セキトモはそれに応えるように触手を斬りつけた!

”ズバン!”

 タコの触手が切断され切り離された側は霧散していった・・・。
 残り1本だ。もう他を警戒する必要はない。

 トウマとセキトモは同時に残りの1本に斬りかかった。二人の斬る位置が少し離れていたので間が円柱のように切り取られた。
 これで風車に絡まっている2本の触手を残し、全ての触手を斬り落とした。タコがこちらを攻撃する手段はもうない。

「あとは仕上げね。バン、いける?」

 水のロッドのチャージを終えたバンはタコに向って走り込みながら頷いた。バンはタコから8mほど離れた位置で左下から斜めに水のロッドを振り上げた。

水刃(ウォーターブレード)!」

 ロッドの先から勢いよく押し出された高圧の水が地面を斬り裂きながら凄まじい勢いでタコに向かっていく。
 バンはロッドを振り切ったところで「あっ」という声を出した。
 一瞬、失敗かと思われたが水のロッドから噴き出していた高圧の水がロッドの先から解き放たれ三日月のような飛ぶ斬撃となった。それはバンの抗魔玉の力をブースト5倍した最大出力の斬撃であった。
 タコの本体を真っ二つに線状に通り過ぎた斬撃がはるか遠くで霧のように消えた。遅れてタコの本体が真っ二つに切れて霧散していく・・・。

 『巨大触手蛸討伐』成功だ!

 ほぼ同時に雲の隙間から光が降り注ぎ、曇っていた天気が晴れに変わった。

 タコ討伐が終わった。
 バンを除く一同は空から差し込む光で勝利を祝福されたかのように清々しい気分になった。

 次の瞬間、風車まで切れて崩れ落ちた。

”ドガガガ!!! ドカン!”

『・・・』

 バンはやっちゃったテヘッみたいな顔をしていた。




※この内容は個人小説でありフィクションです。