スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第52話 壁に囲まれた宿場町


 討伐者パーティー「スレームガング」。メンバーはトウマ(名ばかりリーダー)、ロッカ、バン、セキトモ、イズハの五名である。
 彼らは東大陸にあるアーマグラスの街を出て中央大陸を目指し大橋を渡っているところだ。馬車を引くのは馬次郎という変な名をつけれられている馬である。

 彼らは8kmあった一番目の橋を渡ったところで直径で5kmくらいある小さな島に着いた。この島には橋を補強する資材が大量に置かれているようだ。
 オドブレイクの隣に橋の補強工事に来ている業者たちが泊まる宿舎が建っている。
 宿舎は屋根付きで仕切りの無い広い家屋に雑魚寝のようだ。お金を払えば宿舎に泊まれるが、業者の人たちと一緒に雑魚寝なのに宿代を払うのは勿体ないというメンバーの意見により彼らはオドブレイクで一泊するようだ。

 ま、普通そうだよね?
 雨が降っていたら宿舎に泊まることも考えただろうけどな。

 島に出現したモンスターを討伐していくのは橋を渡る討伐者の礼儀。この小さな島を一周してモンスターを討伐してから二番目の橋を渡る予定なのだ。

 大量の食料を持ったロッカが呟く。

「半日かからない橋を渡るのに一泊かぁ、来るときはここ素通りしたのに・・・」

 バンはやれやれといった感じでロッカに言う。

「来るときは馬車に乗っていましたし、護衛でしたからね。
 今回、私たちは歩きですし討伐者であることはすぐに分かってしまいます」

 バンはチラリとフル装備をしているセキトモのほうを見た。

「ん? 僕のこの格好のせい?」
「いえ、そんなことは」

 テントの設置を終えて昼食を取る。

「この後、この島でモンスター討伐するんですよね? 何がいるか楽しみだな~」
「スライムしかいないんじゃない?」

「まぁ、この島には小動物も見当たりませんし、いるとしたら虫系のモンスターでしょうか?
 中型以上は目立つのですぐに討伐されていないでしょうね」

「う~ん。手応えのありそうなモンスターはいないのか」

 島を一周してはみたもののスライムが12匹、牙蟻5体、棘毛虫7体、羽刃トンボ3体といったところだった。
 それぞれ一体ずつ散らばっている感じだったので難なく倒すことができた。
 強いて言えば羽刃トンボの飛び回る動きに慣れて斬り伏せるのに少し時間を要したといったところだろうか。練習という名目でトウマ、セキトモ、イズハが一体ずつ倒した。セキトモは小さい的に当てるのに一番手こずっていた。

「飛び回るやつはグレイブで斬るの難しいな、苦手かも」
「羽刃蝉のときみたいに大盾でぶつけて怯んだときに斬ればよかったんじゃない?」

「そっか、トウマたちの真似して斬る必要ないよな。僕なりのやり方でやれば」
「そういうことよ」

翌日-----。

 スレーム・ガングの5人は12kmあった二番目の橋を渡って中央大陸へと到着した。

「ついに着いたー! 中央大陸だー!」

 ロッカが振り返って橋の出入り口にいた衛兵を見る。

「さあ、あんたたち。もう簡単にはあっちに戻れないわよ」
「?」

 話を聞くと、他の大陸から中央大陸へは無条件で入れるが今は中央大陸から出る場合、500万エーペルを預けないと出られなくなったらしい。しかも半年以内に中央に戻らなければ預けたお金は没収される。モンスターが少ない大陸への大量移民を防ぐための処置だという。つまり他の大陸へと移民するには中央大陸で最低500万エーペルを稼ぐ必要があるのだ。
 応援や護衛で向かう討伐者は特例として費用は必要ない。但し、戻ってこなかった場合はギルドからの罰則があるようだ。実力のある討伐者たちしか通れないので移民狙いで通ろうとする抜け道とは言えない。
 橋を渡る業者も戻って来るのが大前提で特別な許可が下りた者たちだけのようだ。
海を船で渡る場合も同様。中央大陸から渡ろうとする船には厳重な調査が入るらしい。

「この話は僕も聞いたことなかったよ。そこまでしなくてもいいだろうに・・・」
「ま、討伐者としての実力があれば簡単に稼げる額よ」
「そんなもんっすかね?」
「すぐに戻る気ないんで、全然大丈夫!」

 セキトモは困惑顔だがトウマとイズハは特に気にならないようだ。それより今いる場所が小さい街のような感じになっていることのほうに気が向いている。
 東大陸とは違い周辺が高い外壁に囲まれている。
 ここは港と大橋をぐるりと高い外壁で囲まれた宿場町。遠くを見渡せば壁と空という感じだ。外壁の外へ出るには門を通る必要がある。
 主に東大陸との物資の流通をする者たちが訪れるようでそれなりに栄えている。門に繋がる運搬を主とする中央通りは道幅が広く、通り沿いには多くの店や宿が並んでいる。周辺のモンスター対策でギルドもある。

 この宿場町に博士の邸宅はない。スレーム・ガングは馬小屋が併設されている宿をとった。

「しばらくここを拠点に活動しますのでそのつもりでいて下さい。
 まずは中央のモンスターに慣れて頂こうかと思います」
「そんなに違うんですか?」
「まあ、この辺はさほど変わらないとは思いますが徐々に慣れて貰うには丁度いいでしょう」
「そうね、いきなりだと面食らうかもしれないわね」

「ほどほどでよいと思いますが、装備も新調してよい頃合いかもしれません」
「おー、東大陸でお目にかからなかった物もありそうだね?」

「この宿場町なら中央の討伐者向けで東大陸に流していない物も売ってあると思いますよ」

「ここで俺も装備一式揃えようかな~? 稼いだし」
「自分も買い替えたほうがいいっすかね? 少し不安になってきたっす」
「買うなら強度の高いものにしなよ。すぐ壊れたら意味ないし」

「「はーい」」

「んじゃ、明日はオフにしてトウマたちは装備新調。
 私たちはスイーツ店探しでもしよう!」

 バンは何度もコクコクと頷いた。

 近くの店で夕食を簡単に済ます間に中央の情勢についての話を聞いた。初中央組の三人がいるからねってことで。
 ロッカやバンの話では目的地はこの宿場町から北の方角にある『メルクベル』という都市らしい。街道を速い馬車で行くなら一日で着くそうなのでそんなに遠いところではないようだ。
 この中央大陸には街より断然人口の多い栄えた都市と呼ばれる場所が3カ所あり、三大都市と呼ばれているとか。海岸沿いに小さな街もあるみたいだが漁業中心なので特に知らなくてもよいとのこと。あとは林業中心の小さな街もあるとか。そんな小さな街でも周辺モンスター対策でギルドはあるそうだ。

 中央の火山から見て
 東の『メルクベル』、北西の『ヨゴオートノ』、南西の『ラギアサタ』の三大都市は中央大陸に住む人々が総出で築き上げた防衛都市だという。
 集落や村などもあるにはあるけど人口の大半は各都市周辺に集まっているそうだ。
 この三つの都市を線で繋ぐと正三角形になるような位置関係だとか。
 都市間を繋ぐ街道を通れば馬車だと3~4日くらい。徒歩で行くなら一週間ちょいってところらしい。

 都市の内部では大規模な農業はできない。単純に狭いってことだ。
 小さな個人農園くらいはできるかも知れないが基本農業は外壁の外、討伐者を護衛に雇った大規模な組織で行っているようだ。
 資源の採掘や漁業、資材の運搬にも討伐者が護衛で雇われているとのこと。
 そこそこ実力をつけた討伐者なら仕事に困ることはないらしい。

 都市を得意分野で大きく分けると、
 商業都市のメルクベル、工業都市のヨゴオートノ、農業都市のラギアサタだとか。

 それぞれ得意分野が違うため、都市間の交易は盛んに行われているようだ。

「服や装飾、身の回りの品を買うなら私たちが行くメルクベルが一番よ!」
「装備とかもメルクベルのほうがいいんですかね?」

「それは討伐者向けだから微妙だけど、ここら辺で買うよりいい品があるわよ」
「えーー、どうしようかな?」
「それを聞いたら僕も迷うな」
「自分もっす」

「装備の痛みが酷くないようでしたら下取りに出せますので買い替えもし易いと思いますよ」

「ならここで買っても下取りに出せば問題ないね。
 装備不十分でモンスターにやられるよりはマシだろう。
 とりあえず品を見てから判断するよ」

 トウマたちはあれこれ揃えたい装備の話で盛り上がってこの日を終えた。




※この内容は個人小説でありフィクションです。