スレーム・ガングの5人は宿場町の外壁の外へと出ていた。外壁の外側には数カ所に分けて資材が積み上げてある所があるようだ。
周辺は草原地帯である。何故か荷台を外して鞍を着けた馬次郎も一緒だ。
「ギルドに行くと思ってたんですけど寄って行かないんですか？
馬次郎まで連れて来てるけど」
ロッカが馬次郎を撫でながら答える。
「まずはこの辺りにいるモンスターを討伐するわ。馬次郎の気晴らしもさせたいし」
バンが辺りを見渡して言う。
「この辺りならスライムかゴム兎はいるでしょう。皆さん、あちらを見て下さい」
バンが指さす方向をみると、遠くに山脈が見えた。
「あれが火山のある山脈です」
「あそこに火山があるのか、結構近いですね？」
「だね、僕ももっと遠くだと思っていたよ」
「なに言ってんの？
あそこまで行くのに5日以上、山登るんだからきっともっとかかるわよ」
「マジ？！ それだけ大きい山ってことか」
「へえ～、そう思って見ると雄大だね」
トウマたちは火山のある雄大な山脈をしばらく眺めていた。
ロッカは街道を外れ馬次郎を放している。馬次郎はしばらく駆け回った後、生い茂った草をモリモリ食べ始めた。
「この街道を北に行けばメルクベル、南へ行けばラギアサタの都市に着きますよ。
あと、ここから山脈の方角に1時間ほど歩いた位置に森があります。
クエストではその森に入ることがあるかもしれませんね。
さあ、私たちもロッカの所に行きましょう」
ロッカの所に行った。ロッカが指をさしながら言う。
「多分、あの辺とあの辺とあの辺にいると思うわ？」
「モンスターですか？ 何で分かるの？」
「馬次郎が駆け回ったときに避けてたからね。馬次郎はスライム嫌いだし」
「それ凄くない？ 馬次郎モンスターのいる位置分かるんだ」
「とりあえず、あそこに行ってみようか？」
そう言うとロッカは馬次郎に飛び乗った。
「バンも馬次郎に乗る？」
「いえ、私は大丈夫です。あ、ちょっと待って下さい。これを皆さんに」
バンが皆に渡したのはポーションだ。パーティー管理費での道具関連の購入はバンに一任しているので買ってきたようだ。
「一応、皆さんも回復手段があったほうが良いでしょう。私の治癒のロッドだけでは間に合わない時があるかもしれませんので昨日買って来ました。一瓶ずつですが持っていて下さい」
「これって一瓶5万しませんでしたっけ？ こんな少ない量なのに」
「高価なものだから大切にしないとな。
瓶堅そうだし簡単に割れる心配はなさそうだけど」
ロッカが支持した場所に行くとスライムがいた。通常のスライムの2倍くらいはある大きさだ。
「馬次郎やるじゃん！ あのスライム通常より大きいですね？」
「トウマ、とりあえず避けることだけに集中して近づいてみて。
もし捕まっても溶かされる前に斬ればいいだけだから」
「そんな、今更捕まるわけないですよ。
多少大きいからってその分斬りやすくなっただけじゃないですか？」
セキトモとイズハがうんうんと頷く。
「まあ、まあ。
こちらから斬りに行くんじゃなくてスライムの攻撃を誘ってみてって言ってんの」
「はあ、分かりましたよ。やってみますよ」
トウマがスライムに近づくとスライムがトウマに気づいたようだ。
まー、普通に飛び掛かってくるだろうな？
1匹だし、避けるだけなら簡単だよ。
スライムがトウマに向けて飛び掛かる。トウマはそれを難なく避けた。
「ちょっと速いってくらいですかね？ でも避けるだけなら簡単なんですけど」
「ちゃんと見てなさい、また来るわよ！」
スライムはトウマのほうではなく斜め方向に飛んだ。
着地して、もう一回。今度はトウマの方だ！
”べちゃ”
スライムがトウマに張り付いた。予想外の動きに避けきれなかったトウマは慌てて張り付いたスライムを剣で斬る！
スライムが霧散して行く・・・。
「今の何？！ スライムがゴム兎みたいな動きしたんですけど」
スライムが落とした魔石を回収しながらバンが言う。
「今のが東大陸との違いの一つですね。
こっちのスライムは賢いといいますか、単純な動きじゃないのですよ。
勿論、こちらが先手で攻撃すれば東大陸と大差ないですけどね。
違いを知って欲しかったのです。
初見で今のスライムが複数いたらかわせますか？」
スライム1匹の攻撃をかわせなかったのだ。
トウマは苦笑いするしかなかった。
セキトモとイズハが顔を見合わせて頷く。
「つ、次。僕にもやらせてくれ！」
「自分もお願いします！」
それからトウマ、セキトモ、イズハは代わる代わるスライムを討伐して行った。勿論、先にスライムに攻撃させてからである。
昼食で一旦宿場町に戻るが午後からも同様にスライム討伐を繰り返す。討伐したスライムは20匹を超えた。
スライムは斜めに飛んだり、大きく飛び越えて後ろから攻撃してきたり、小刻みにぴょんぴょんと周回して急に飛びついてきたり様々な動きをみせていた。
「最初は戸惑ったけどけっこうスライムの動きにも慣れてきたね」
「俺はもうこっちのスライムの動き見切りましたよ！」
「自分も大体は分かってきたっす」
「なかなかいないわね？」
「そうですね、一体くらい出てもいいかと思いますが」
「何がですか？ ゴム兎？」
「見てのお楽しみなんだけど・・・。もう少し範囲広げたほうがいいかもね？」
「あちらの泉の方向へ向かってみましょうか？
行き過ぎない所までならいいでしょう」
一同は南西の泉近くまで行くことにした。
途中でゴム兎と遭遇する。一回り大きいゴム兎だ。
「こいつも何か違うんですか？」
「大丈夫！ そいつは多少素早くなった程度よ」
そう聞くとトウマはあっさりとゴム兎を斬り伏せた。
「ゴム兎が出たってことはこの辺にいる可能性あるわね？」
「少し探してみましょうか？」
「何を探すんですか？」
「スライムでもいいしゴム兎でもいいかな？ 見たら分かるし」
（？）
一同は辺りでスライムを探す。ロッカが乗った馬次郎はスライムを探す気は無いようでのんびりしている。馬次郎の周辺にはいないということだろう。
「いたっす！ スライムっす」
イズハの元へ皆が集まった。
「試してみないと分からないけど、トウマ行って！」
「また俺ですか？ いいですけど」
トウマがスライムに近づくと、トウマに気づいたスライムがうねうねと形状を変えゴム兎に変化した。
「うお？！ ゴム兎に変わった！
スライムが擬態するとこ初めて見ましたよ」
「まあ、それも見せたかったけどハズレね、倒していいわよ」
「今度は僕にやらせてよ」
セキトモがゴム兎を倒す。
またスライムを探す。
次はバンが見つけたようだ。
トウマが近づくとまたスライムがゴム兎に擬態するかのように見えたが、バンが声をかけた。
「？！ トウマさん、盾を構えて下さい！」
トウマは慌てて腰に下げていた盾を取り外し構えた。
擬態したゴム兎の額に石のような角が生えている。
「やっと出たわね」
「こいつですか？ 探してたのって」
「そう！ 各段に攻撃力が上がるわ気をつけて」
”ゴン！”
トウマは飛び掛かってきたゴム兎の頭突きを盾で受けた。
確かに強烈だ、これはヤバい。
でも、動き自体は変わらないから何とかなりそうだ。
すると、ゴム兎は口から石礫を放った！
“ガガガッ！”
あぶねー！
盾持ってなかったらヤバかった。
”ズバン！”
ロッカがゴム兎の背後から短剣で斬り伏せた。
ゴム兎が霧散して行く・・・。
「どう？」
「いや、いや、どうって言われても何ですか？ 今のゴム兎。
角みたいなの生えてたし、まるで|一角兎《アルミラージ》みたいじゃないですか？
それに石礫吐いてきましたよ」
「今のは複合体と言われているモンスターです。
中宿で針蜂を倒した時と同じ感じですね」
「あー、あれか。巣に潰されて動けなかったやつ」
「そう。
で、今のゴム兎は多分その辺に転がっている石と一緒に取り込んだ兎に擬態したってところかな？
角生えたみたいだから|一角兎《アルミラージ》か、いい呼び名かもね。
中央にはそういうやつがたまにいるのよ、全身に石をまとってるやつとかね」
「それヤバくない？ 中央のモンスターに慣れるってそうゆうことか。
僕はてっきり動きが違うだけかと思ってたよ」
「自分もっす」
「実際見て貰ったほうが早いと思ってね。
さっきのやつは身体の中にも石を生成してたみたいだけど珍しくはないわ。
石を身にまとってるやつはさっきのように石礫もあると思ってないと痛い目に合うわよ」
「厄介だな・・・」
口には出さなかったがトウマ、セキトモ、イズハの三人は思った。
痛い目に合う前に教えてくれてもいいんだけどなーと。