スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第55話 泉の蛇(前)


翌日-----。

 スレーム・ガングの5人は泉近辺でモンスター討伐を繰り返している。ここは木が所々生えており林に近くなってきている場所だ。馬次郎はお留守番。

 現在、出現しているモンスターはスライム、ゴム兎、鋏バッタ、棘毛虫。どれも人間の頭2つ分くらいの大きさである。
 鋏バッタは飛ぶ上に口元にある鋏の攻撃がヤバい。
 棘毛虫は棘を一気に飛ばすので厄介だ。

 トウマは太ももに刺さった棘を抜いている。

「痛て~、盾で防ぎ切れなかった。棘毛虫って棘飛ばしてきてましたっけ?」

「こっちのやつは飛ばしてくるやつがいるのよ。
 勢いは強くないけど突然一気に飛ばすからかわしにくいのよね。
 目に刺さらないように顔は守らないといけないし。
 まあ、棘がまた生えてくるまで時間かかるから1回きりだけどね。
 こういう時、盾持ってたらって思うわ」

 大盾を持っているセキトモと上下にチェインメイルを着ているイズハは無傷のようだ。他の者は身体の装備がないところに棘が刺さったり、かすったりで多少負傷している。この程度でポーションを使うのは勿体ないので傷が深いところだけをバンが治療している状況だ。

「たまたま隙間に刺さらなかっただけかもっすけど早速チェインメイルが役に立ってるっす」
「いいな~、棘くらいなら弾くんだね、俺も買おうかな」

「棘毛虫が飛ばす棘はモンスター素材なのでなるべく回収して行きましょう」

「これって消えないんですね? ゴム兎が放った石も消えなかったし」

「モンスターが放った物は残るようですよ。
 モンスターの体から切り離れた時点で抜け殻のようなものになるのでしょう。
 魔粒子が流れていませんので抗魔玉の力で浄化することもできません。
 部位切断と違って確実に手に入るモンスター素材でもありますね」

「トウマ、石礫の石持って帰っても意味ないわよ。ただの石だから」
「わ、分かってますよ」

 トウマはこっそり拾っていた石をポイと捨てた。

 イズハが少し遠くを見て言う。

「あれ泉っすよね?」
「ホントだ、結構大きい泉みたいだね」

「いつの間にか泉まで来てしまったようですね。どうします? ロッカ」
「そっか、確かクエストあったわね」

「え、ギルド行ったんですか?
 俺たち一緒に行くと思ってギルドに寄ってないのに」

「ここでは稼げそうにないからお金引き出すついでにバンと寄ったのよ。
 私たちも買い物したかったし、ポーションも買って来たでしょ?」
「あ、オフのときに行ったの?」
「そ。昨日、今日はこの辺で討伐者見てないでしょ?
 だからまだそのクエスト残ってるだろうってこと」

 ロッカたちの話では泉付近には『巨大毒牙蛇』という難易度Cのモンスターがいるという。泉周辺で縄張りを持っているタイプのようだ。
 宿場町は外壁が高い上に周囲の見晴らしも良い。そう簡単にはモンスターが襲って来れないので近くても放置されているらしい。
 宿場町を拠点としている討伐者の本業は業者関連なので休暇の時に小遣い稼ぎで討伐をしている程度だとか。難易度の高いモンスターは立ち寄った討伐者が討伐して行くようだ。
 ちなみに討伐者を生業にしている者が常駐していないため祭りは開催されない。

 セキトモが不安そうに言う。

「難易度Cのモンスターがこんな近くにいるなんて。
 それに名に巨大がつくってことは丸飲みにしてくるサイズじゃないのか?
 しかも毒って・・・毒持ちのモンスターは僕、経験したことがないよ。大丈夫?」

「一応、解毒ポーションも3瓶買ってありますよ。
 ですが、巨大サイズは噛まれた時点で身体が引き裂かれるかと・・・」
「怖いこと言うな~、バン」

「とりあえず、蛇見てから判断しようか?」

 一同は泉の岸辺まで向かうことにした。
 外周で1kmくらいありそうな泉に着く。

「大きい泉ね。蛇はどこにいるのかしら?
 あ、いたいた、あっち側か、どうやらお昼寝中のようだわ」
「泉の中だったら無理かなと思いましたが大丈夫そうですね?」

 対岸に見える巨大な蛇は頭が1m以上ありとぐろを巻いている。全長10m以上はありそうだ。

 ちょっとバンさん、あれのどこが大丈夫そうなんですか?

「あれ、ホントに難易度Cっすか? 自分の査定では最低でもBっすけど」

「元観測者の見解ってやつね。
 東大陸の難易度基準甘かったからね、過保護というか。
 やってみたら案外あっさりってのが多かったし。
 中央基準だとあのくらいは難易度Cの範疇なんじゃない?
 Bに近いほうだとは思うけどCにも幅があるからね」

「東大陸なら間違いなく難易度B指定されているでしょうね。
 被害が出てないからCにとどまっているだけかもしれません」

「陸上モンスターでイカ、タコ並みの難易度って・・・。
 それにあの蛇デカ過ぎませんか?
 擬態前のスライムってキングサイズかな?」

「増量タイプか、融合タイプか、どちらとでも取れますね。
 この辺りはモンスター放置されているようですので。
 でも、あの大きさになるまで見過ごされているとは・・・」

「それで慌ててクエストが出されたってことなんじゃない?
 さて、どう倒す?
 蛇の攻撃は牙による噛みつき、巻き付き、尻尾による振り払いってところかしら。
 あ、毒飛ばしてくる可能性もあるか?
 デカいから身体ぶつけられただけでも吹き飛ばされそうね。
 私は炎熱剣で鱗がない頭を串刺しにするか、首を斬るのが一番だと思うわ」

「え、俺ですか? 俺のリスク高くない?」

「蛇の皮剥いでみたいところですが・・・剥ぎ取れるような武器がないので。
 長柄の大鎌返さなければ良かったかな?」

 バンさん、あの蛇相手にモンスター素材狙ってる?

「自分の糸で胴体切断してみるっすか? 切断したら残る可能性あるっすよね?」

「蛇が鱗を硬化していたら糸で斬れるか分かりませんけど・・・。
 見た感じ抗魔玉の力を通せば切れそうではありますね。
 糸での切断はありかもしれません。
 頭に近い部分が切れたらそれで倒せるかもしれませんし、頭部側に核があれば素材が残る可能性は十分にあります」

「だったら罠しかけて誘いこもうか? 狼のときのやり方に近いけど」

 一同は蛇に気づかれないように遠回りして対岸側へ周り込んだ。
 蛇から100mくらい離れた位置に立っている3本の木にイズハの糸を∞の形になるよう仕掛ける。木々の間隔は3mほど離れているので蛇は十分に間を通れるだろう。
 糸を止めているのは先ほど回収した棘毛虫の棘。糸を引けばすぐ外れるように軽く木に刺してあるだけだ。
 今回は抗魔玉の力を糸に流すためにイズハは糸が刺突剛糸に繋がった状態で木の上で待機する。蛇がどちらかの仕掛けた糸の輪を通った瞬間に飛び降り、糸を引いて胴体を切断するという算段だ。

 誘い出すのなら糸の輪はひとつでいい気もするけどな?
 仕掛ける範囲を広げるってこと?

「で、ここにどうやってあの蛇誘き寄せるんですか?」

「それは・・・イズハは木の上で待機してるし、ここまで誘い出すのはトウマと私の役目ね」

 おおう?
 てっきり俺が餌になれって言われるかと思った。

「私たちがこの木の手前で二手に別れるでしょ?
 追いかけて来た蛇がどちらかの糸の輪に通ってくれれば成功。
 一応バンとセキトモは注意を引くようにそれぞれの輪の先で待ってて貰うってことでいい?」

「イズハ以外は全員蛇に狙われる可能性があるってことだな。
 僕走るの遅いし、こっち来ないで欲しいけど」

 作戦が決まったので早速行動開始だ。

 トウマとロッカが蛇から20m付近まで近づいた地点で蛇に気づかれた。真っ赤になった蛇の眼。完全に目で捕らえられてしまったようだ。
 大きな牙の先から紫色の液体が滴っていてズルズルと全体が動き始めている。

「あの牙から出てる紫の液体で身体が溶かされるってことはなさそうね?
 となると体内に注入されたら毒が回るって感じかな?」

「あんなのに噛まれたらその時点で終わりですよ。
 逃げるときの走るペース合わせて下さいよ!」
「分かってるわ」

 本気で走ればトウマよりロッカのほうがはるかに速いのだ。トウマは逃げ遅れたら確実に自分だけが襲われると気づいて一応、ロッカに釘を刺した。
 トウマが左、ロッカが右。走った先にはトウマの方にセキトモ、ロッカのほうにバンが待ち受けている状態だ。

 蛇はうねうねとゆっくりトウマたちの方向へ蛇行し始める。トウマたちはじりじりと後ろへ下がって行く。

「このままゆっくり近づいてくるとは思えないわ。
 反動をつけるように蛇の頭が後ろへ下がったら要注意よ」

 次第に蛇の進行よりトウマたちが離れる足取りの方が速くなっていた。
 トウマたちが蛇から30mほど離れたところで蛇が動いた。

「トウマ、来るわよ。全力で走って!」




※この内容は個人小説でありフィクションです。