スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第10話 力の解放


”ドサッ!”

 痛っ!

「トウマさん! 生きていますか?」

 何か聞こえた。俺まだ生きているのか?
 うっ・・・息苦しい・・・。
 頭ぐらぐらするし何も見えない・・・。
 何か引き裂く音がするような。

”ビリッ、ビリッ・・・”

 トウマは頭に巻き付いていた糸がようやくほどけて顔を出した。

「ぶはっ! ハァ、ハァ・・・」
「良かった! まだ生きていましたね。もう少し我慢して下さい」

「バンさん? お、俺、今どうなってるんですか?」

「蜘蛛の糸でぐるぐる巻きになっています。今ほどいているところです。
 トウマさん、ここからはちょっと乱暴になりますが我慢して下さい」

 トウマはバンにグルグルと身体を回された。

「うぉおおおおお~~~~!」

「解けました!」

 バンは糸の先を棒にくくりつけ、トウマの身体に巻き付いた糸を棒で巻き取ったようだ。棒に巻き付いた糸は大きなお団子のようになっている。

「荒々しくなってしまい申し訳ないです。
 トウマさんを傷つけずに糸を切るのは難しくて巻き取る他ないかと」

「・・・だ、大丈夫です。助かりました」

 バンはすぐさま治癒のロッドで傷ついたトウマの背中を治療し始めた。

「麻痺だったようですね。刺されたのが毒だったら死んでいたかもしれません」

 少しずつだけど、くらくらした頭が治まってきた。
 身体は・・・まだ思うように動かせない。

 二人が居るのは洞窟の小部屋のようになっている場所だ。暗いが松明が置いてあり、何とか見える状態だ。トウマは天井から垂れ下がっている鍾乳洞に吊るされていたようだ。

 俺、あれに吊るされていたのか?
 俺以外に吊るされている人がいないのは救いだな。

 トウマは湿った顔を拭うとそれが血だということに気づいた。顔も手も確認したが治療してもらった背中以外で傷はないはずだ。トウマがバンを見るとバンの両手が血だらけになってた。

「これバンさんの血?! バンさん、その手。怪我してるじゃないですか?」

「すみません、血で汚してしまいましたね。
 糸を無理やり引きちぎりましたので」
「そんなことより早く手当てを!」
「このくらいなら後で大丈夫です。抗魔玉の力はなるべく温存しておかないと。
 それより早くロッカの援護に行きましょう!」

 そういえば、ロッカがいない。

「今、ロッカは一人で蜘蛛と交戦中です。
 私がトウマさんを助ける間、蜘蛛の注意を引き付けて時間を稼いでくれています」

 バンはトウマに肩を貸し、まだ満足に動けないトウマを運ぶようだ。

「急ぎましょう!」

◇◇

 二人が洞窟のひらけた場所に出ると、まだ蜘蛛と交戦しているロッカの姿が見えた。蜘蛛は何本か脚を切り落とされて動きが鈍くなっている。ロッカはひたすら走り、蜘蛛の背後に回っているようだ。

 ロッカ優勢といったところか、ほっ。

「急がないと」
「ロッカが押しているように見えますけど」
「今は交互に短剣を使って節約しているようですが、もう10分を越えています」
「あ、時間切れ!?」

 バンは抗魔玉を3つ持っていてそれを使い回している。ちなみにロッカは2つ、予備で持っていた1つをトウマに渡したのだ。

 バンは考えを巡らせ始めた。

 ・この状況下で私の抗魔玉を走り回っているロッカに渡すのは難しい。
 ・長柄の大鎌は狭い空間では邪魔なので入口に置いて来ている。
 ・炎のロッドは力を随分使ったので威力のある攻撃はまだ出来ない。
 ・水のロッドはチャージに時間が必要。狙うのも難しい。
 ・剛拳は直接叩き込む武器なので追うのには向いていない。

 バンは首を横に振った。すぐには良い案が浮かばなかったらしい。

「ここで下ろしますね。私はスピアでロッカの援護に回ります。
 トウマさん、難しいかもしれませんが逃げる事も視野に入れておいて下さい」

 バンの血だらけの手では武器を満足に扱えないことは明白だ。

 俺も何か出来ないか?
 クソっ、まだ足に力が入らない・・・。
 いや、腕には力が入る。
 それに俺の剣はまだ使っていない、出来る事をやるんだ!

「バンさん、もう少し蜘蛛に近づいて俺を蜘蛛の所に投げてくれませんか?」
「え?!」
「一発勝負ですけど、俺が行きます。
 もしダメだったときはフォローお願いします」

 手は痛いだろうけど、バンさんの力なら俺を投げ飛ばすくらいは出来るはず。

 トウマの決意を察したのかバンはトウマを持ち上げ肩に担いだ。洞窟に差し込んでいる光で周囲は明るい。松明はここに置いて行くようだ。

「頼みます」

 バンは一言だけ言って、トウマを担いだまま蜘蛛に向かって歩き出した。

 ロッカはトウマを担いだバンが蜘蛛に近づいていることに気づいたようだ。小刻みな動きで二人から蜘蛛の注意をそらし、自分に引きつけようとしている。

 ロッカの息があがっている。
 体力面でも余り時間は無さそうだ。

「トウマさん、行きますよ!」
「思いっきりいって下さい!」

 バンは走る勢いと合わせ、蜘蛛に向かってトウマを投げ飛ばした!

「んーーーー、えいっ!」

 トウマは放物線というより真っすぐ直線で蜘蛛に向かって投げ飛ばされた。もの凄い勢いだ。

 え?! ちょっと、ちょっとーーー!

 トウマは空中で急いで剣を抜いた。

 何かを察知したのか突如振り返った蜘蛛の赤い眼がトウマを完全に見てとらえた。

 気づかれた!
 でももう止まることは出来ない、このまま行く!

 トウマは蜘蛛の頭を両断出来るよう空中で態勢をとり直し、縦に剣を構えた。

 集中しろ。
 全力で振り抜くんだ―――

 トウマの持つ剣の薄白い輝きがより濃く大きくなり、炎のように揺らぎ始めた。

”スパーーーーーーーン!!”

 軽かった。
 でも、もの凄い手応えだった・・・。

 トウマは蜘蛛を斬った勢いそのまま蜘蛛の背後に転げ落ちた。蜘蛛は頭から胴体まで真っ二つに斬り裂かれ霧散し始めている・・・。

「痛てて、斬れたよな?」

 トウマは仰向けでまだ立ち上がれない。バンの声が聞こえる。

「凄い、蜘蛛が消えていきます! トウマさん、やりましたよ!」

「よかった・・・ハァ、ハァ」

◇◇

 仰向けになって倒れているトウマの元にロッカが駆け寄って来て手を差し出した。

「生きてたみたいね。
 まったく、いいところ持っていくんだから」

「ありがとうございます。ご迷惑お掛けしました」
「ホンっトよ。
 トウマが捕まらなきゃ楽に倒せたはずだったのに」
「申し訳ない・・・」

 トウマはロッカに引っ張られ、上体を起こすと辺りを見渡した。バンはトウマを投げ飛ばした辺りで座り込んでいる。

「トウマはここで少し休んでなさい」

 ロッカはバンの所へ向かうようだ。

 ロッカはバンが座っているところに行き、心配そうに声をかけた。

「バン、大丈夫?」
「はい。でも手が痛いので治療させて下さい。ロッカは大丈夫ですか?」
「私は大丈夫よ。走り回ったから疲れたけど」

 ロッカもバンの所で座り込んだ。相当お疲れのようだ。

 二人とも座りこんじゃったな。
 無理もないか。
 ロッカなんて一人で立ち回ってたもんな。
 まだ身体がダルいな。少し寝たい・・・。

 うとうとしたトウマはまた寝転びそのまま眠ってしまった。

◇◇

 少し落ちついたロッカとバンは少し目を見開いて驚いたように話した。

「そうそう、さっきのトウマの剣見た?」
「はい、見てました。トウマさんまだ2日目ですよね?
 もう抗魔玉の力を解放出来るなんて凄いです」
「多分、あれ無意識よ」

「極限に追い詰められたからこそ出来たのでしょうね。でもあれは危ういです」
「他にモンスターがいなくてあれで終わったから良かったけど。
 あんな力の解放は3分もたないと思うわ」
「話したほうがよいでしょうか?」

「う~ん。本人気づいてないから黙っていよう。
 多分、もう1回やれって言われても出来ないだろうし」

◇◇

「トウマさん、起きて下さい。そろそろ行きますよ」
「うっ、うーーーん。ハッ!?」

 トウマは蜘蛛討伐の事を思い出した。

 蜘蛛、倒したよな?

「痺れは取れましたか?」
「ん、もう大丈夫みたいです。俺けっこう寝てました?」
「それなりにです。
 ロッカはもう先に洞窟の外に出て行きましたよ。私たちもここを出ましょう」
「申し訳ない・・・」
「大丈夫ですよ。
 魔石も回収しましたし、ここは鉱石が採れるのでついでに集めていました。
 持っていける程度ですが」

 バンはニッコリと微笑んだ。

 うん、カワイイけどね。
 その後ろにあるでっかい袋に詰め込まれている物は何かな?
 持っていける程度なのかな?




※この内容は個人小説でありフィクションです。