スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第11話 口止めによる誤解


 三人は蜘蛛討伐を終えて洞窟を出た。バンは前側にドでかいリュック、背中に鉱石が入った大きい袋を背負って歩いている。荷物に埋まっているバンを気遣って長柄の大鎌はトウマが持っていくことにした。ロッカが少し笑っている。

 バンさんどんだけ力持ちなんだろ?
 でもどう見ても変な生き物になってるよな?
 荷物が歩いている風にしか見えない。
 まあ、今回のクエストは2つとも達成したし、成果としては十分だよな。
 俺は2度も死にそうになったけど。

 三人はモンスターに遭遇する事もなく、バルンバッセの街に帰り着いた。おそらく洞窟前で会った男たちが帰りの道中モンスターを討伐して行ったのだ。これ以上戦う元気がない三人には助かったと言える事だった。
 三人は換金所で魔石の換金を済ませギルドに向かった。モンスター素材や鉱石は道具屋でも買ってくれる。しかし、ギルドのほうがどんぶり勘定で高く買い取ってくれるので討伐者は大抵ギルドで換金するようだ。

【巨大蛙討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 15万エーペル

【巨大蜘蛛討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 20万エーペル

【素材】
 巨大蛙の皮x2 8万エーペル(深緑が3、白が5)
 巨大蜘蛛の糸 3万エーペル
 鉱石(袋いっぱい) 10万エーペル

 バンさんの仕事だけで討伐報酬超えてませんか?
 しっかり蜘蛛の糸も持って来てるし。

 換金所で魔石を換金した額は12万7千エーペル。合計 68万7千エーペル。

 今回もきれいに割れて分け前は22万9千エーペル。
 大仕事をやってのけた感がある。

 昨日、俺の所持金6万くらいだったよな?
 一気に30万エーペル目前まで近づいたぞ。
 これはうれし過ぎる。

 カウンターのオッサンは「ホントにやったのか?」と驚いていたが、素材を見て納得したようだ。蛙の皮は継ぎ目がなく広いのでかなり上物らしい。
 ちなみに嘘ついて報酬を得るとバレた時、討伐報酬の倍額返済の義務が発生する。取り立て屋に追いかけられる毎日になるようだ。

 仮にクエストを受けていなくても依頼が残っていれば報告する事で報酬が貰える。道中に倒した牙蟻10体のクエストは残念ながら貼って無かった。
 一番弱いとされるスライムに関してはクエストの依頼自体が無い。スライムは頻繁に出現するし、どのクエストなのか特定が難しいからだ。

 クエストは判別しやすい縄張りを持つタイプのモンスターが主である。依頼書は同一内容のものが掲示板に3枚貼ってある。1枚だけだと放置、失敗などで達成されない可能性があるからだ。討伐は早い者勝ちなので1枚でも取られていたら挑まないという討伐者が多い。無駄足になるのを避けているのだろう。
 達成されていないクエストは距離や期間を考慮して依頼書が補充される。1日で終わりそうなクエストなのに達成されない場合、次の日には補充されるといった感じだ。

 ロッカはカウンターのオッサンに何かを渡しているようだ。

「これ沼地に落ちていたわ。蛙倒した場所だったからおそらくは・・・」
「・・・エッグとタートのタグか。あの二人最近顔出さないとは思ってたんだ」
「その二人も討伐者だったんでしょ? 覚悟の上よ」

 ロッカはニッコリと笑顔を作る。
 負けずにオッサンも笑顔を作る。

「そうだな。しんみりした話は無しだ! 届けてくれてありがとよ!
 あいつら逝ってたか~、敵わないなら逃げろっつーの。ガハハ」

 何となく会話の内容で察したわー。
 そうだよな、俺だっていつそうなるか分からないし。
 討伐者は死も覚悟の上だ!

 ロッカがじっと見ていたトウマに気づいたようだ。

「何よ?」
「何でもないです」

 突然、男が話しかけてきた。洞窟の前であった剣を持った壮年の男だ。

「おう! お前ら戻って来てたのか。 なあ? ダメだったろ?」

「勝手に決めつけないでよ。倒して来たわ」
「はあ?! 嘘だろ?」
「嘘言ってどうすんのよ」

 男は急ぎカウンターに駆け寄っていった。蜘蛛が本当に討伐されたのかオッサンに確認しているようだ。

「マジ?! 蛙も?! どうなってんだあいつら」

 トウマ、ロッカ、バンはカウンターで騒いでいる男を眺めていた。

「あ、戻って来た」

「すまねーな、とても信じられなくて確認して来たぜ。
 蛙まで倒してたとは驚いた。すげーじゃねーかお前ら」
「両方ともとどめをさしたのはこのコよ」
「マジ? このガキ? そんなすげーのかよ」

 いや、確かにとどめは俺だったかもしれないけど、その前が凄かったんです。

 トウマを見たロッカが唇に人差し指をあてたあと唇をチャックする仕草を見せた。

 内容を明かすなってこと?
 秘密にしたい事って何かあったかな? 二人が強いってこと?
 あ、バンさんが使っている武器の事か。
 長柄の大鎌で皮落としたのバンさんだし、洞窟の奥に行けたのもバンさんの炎のロッドのお陰だし、治癒のロッドで傷の治療もしてくれたし。
 バンさんの力が凄いってことも秘密かな?
 女のコが力強いって言われても嬉しくはないだろうしな。

「で、で、どうやって倒したんだ?
 お前らーこっち来いよ! こいつ蛙と蜘蛛倒したんだってよ!」

 何人かの男たちがトウマの所に集まって来た。皆、討伐者だろう。

 ロッカ、助けてくれ~。

「あ、トウマ。私たちこれから行く所あるからここで解散ね。
 もう行きたいクエストも無いし、明日はオフで。じゃあね!」
「トウマさん、さようなら~」

 あ、二人に逃げられた。俺にどうしろと。

「なあ、詳しく討伐の話聞かせてくれよ」
「飲みに行こうぜ」
『いいね~』

 トウマは数人の男たちに連行されるように酒場へと連れて行かれた。

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 詳しい内容はロッカの口止めで話せず、かいつまんで話していた結果。
 俺がおとりになって、突っ込んで、俺が倒したって事になってしまった・・・。
 それだと俺一人で倒したみたいじゃないですか~。
 誤解です。ホントは違うんです。
 ボロが出そうなのでもうあまり話すのはよそう。
 すでにボロボロか。

「ボウズ、酒飲めねーのか?」
「しかし、がんぐってすげーのな? まだガキなのに」
「いや、そんなことは・・・」

 ん? 今この人、がんぐって言わなかった?
 酔っぱらってんのか?

「自分を下にしてるとこなんて威張りくさってなくていいわ~。
 尊敬するぜ~、歳は関係ねーよな?」
「全くすげーよな。
 俺らも挑んだ事あるけど、ビビッてすぐ逃げちまったよ。あはは」
「聞いてくれよ~。俺のときなんてさー」

ワイワイ。

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 トウマは宿に戻った。酒場の代金は討伐話を聞きにきた賑やかな男たちがおごってくれた。筋肉痛がひどかったので日課のトレーニングはお休み。

 あの勢いだと、あの人たちまだ飲んでるんだろうな・・・。
 休息も大事だよな。明日はオフって言ってたし、何しよう。
 行きたかった道具屋に行こうかな?
 待てよ。ロッカがもう行きたいクエストは無いって言ってなかったか?
 このまま解散ってことは無いよな?
 そういえば、何の約束もしていない。
 どうやったらあの二人と会えるんだ?
 このまま会えないとか無いよな?
 なんか不安になってきた。

 とりあえず明日はギルドにも顔を出そう。
 二人に会えるかもしれない。

 外から雨音が聞こえ出した。

 せっかくのオフなのに明日は雨か~。
 そういえば、じいちゃん雨上がりの日はよく出掛けてたな。
 俺はいつも留守番してたっけ。



 トウマはまだ知らない。
 一夜でトウマたちのパーティー名が有名になっている事を。




※この内容は個人小説でありフィクションです。