スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第56話 泉の蛇(後)


 それぞれがこれから来るであろう巨大な蛇への対処を考えていた。

 イズハは罠を仕掛けた中央の木に登ってトウマたちが蛇を連れてくるのを待っている。刺突剛糸の始点となるクナイは木に刺してある。取り外している抗魔玉を握りしめ、いつでも刺突剛糸の本体に取付できるように構えている。

 バンは蛇が来たら三刃爪で迎撃するつもりだ。罠が成功すればそれでよし、失敗すれば直接相手をするまでだ。走る音や声で大体分かるが直線で視界がひらけている訳ではない。腰の三刃爪に手をやり、まだ見えない蛇のいる方向を注視している。

 セキトモは大盾を構えて待機している。

 あの巨体に直撃されたら吹き飛ばされるか、どこまでも押し込まれるだろうな。
 まともに受けてはダメだ。
 受け流すつもりでいたほうが無難か・・・。

 しばらく経つと、バンが皆に声をかけた。

「来たみたいです!」

 ガサガサと激しく茂みをかき分ける音とトウマの声。

「うおぉ~~!」

 茂みをかき分けトウマとロッカの二人が同時に姿を現した。5mくらい離れて巨大な蛇の頭が二人を追従している。

 二人は走りながら頷き合い二手に別れた。
 トウマが左、ロッカが右の木の間を走り抜けて振り返る。
 トウマはセキトモと、ロッカはバンと合流した。

 蛇が追って来たのはトウマとセキトモのほうだった。
 仕掛けた糸がある木の間を蛇が通る。
 イズハは素早く抗魔玉を刺突剛糸に装着して木から飛び降りた! 勢いよく木の間を通り抜けている蛇の胴体を糸が締めつける。

”バシュ!”

 巨大な蛇の胴体の後ろ1/3程度、尻尾側が切り離された。伸ばした糸が長過ぎて締め付けが遅れたようだ。

「少し遅かったっす!」

 蛇はしばらく悶えたが倒せてはいない。残った胴体で再びトウマとセキトモを狙って動き出した。

 セキトモは襲って来た蛇を大盾でいなした。それは成功とは言えなかった。いなした方向にはトウマが走って逃げていたのだ。

「しまった!」

 セキトモはすぐさま蛇から距離を置き、流れゆく蛇の胴体に向け重撃飛槍を放つ! 蛇の胴体に大ダメージを与えるがそれでもトウマを追う蛇の動きは止まらない。

 別方向にいたロッカとバンが速度を落としている蛇を追いかけて参戦した。蛇を追いかけながら蛇の胴体をこれでもかというくらいに斬り刻む。
 遅れてイズハも蛇を追いかけている。
 しかし、速度は落ちたものの蛇は執拗にトウマを追い続けている。

 蛇は大きく口を開けてトウマに迫った。牙からは毒が滴っている。

 このままでは食われる、あんなデカい口なんだ。
 いけるよな? 一か八かやるしかない!

 トウマは走りながら剣を抜き、炎熱剣へと切り替えた。走り込んだ先にある木を足場にし、大きく開けた蛇の口の中へと勢いよく飛び込んだ。
 トウマは蛇の口に入った瞬間、身体をひねり、剣を上へ突き刺すと蛇の頭の先からトウマの剣が突き出た!
 更にトウマは突き立てた剣を軸に身体をひねり、剣に体重を乗せて一回転した。

”ジュバン!”

 蛇の頭が輪切りになり切り口が炎上、トウマは炎の中から飛び出した!

 頭を斬られた蛇にはもう力は残っていなかった。
 蛇が霧散していく・・・。

「痛てて、あぶねー。蛇と一緒に火傷するところだった」

 トウマの元へ皆が駆け寄った。
 イズハはトウマが無事なのを確認すると切り離した糸を回収しに戻った。

「全く、危なっかしい戦い方思いつくわね?」

「どうせ食われるなら自分から飛び込んだほうが生き残れるかな?と。
 牙で噛まれさえしなければ中からでもやれると思って。
 さすがに腹の中までは行きたくなかったので剣突き立てちゃいました。はは」

「トウマ、ごめんな。トウマのほうに蛇受け流しちゃって」
「いや、そっち側に逃げてしまった俺が悪かったです。
 セキトモさんの後ろに回るべきでした」

「皆さん無事で何よりです」
「結果だけ見たらトウマだけ大ピンチって感じだったわね。あはは」

「う~ん。俺、狙われやすいのかな?」

「モンスターにまだ脅威と見られてないんじゃない?」
「グサッ。今の俺の心のどっかに深く突き刺さりましたよ」
「わはは!」

「それでは蛇の戦利品を確認していきましょうか?」

 皆で戦利品がないか周囲を確認して回る。
 すぐに見つかったのは魔石・中だ。青のカビみたいな不純物も混ざっている。

「あの大きさで魔石が中だったってことは完全な融合タイプじゃなかったようね?
 融合少な目の増量って感じか」

 スライムは融合タイプのほうが魔石は大きくなりやすく融合すると質量が倍以上になることもあるとか。
 それと毒の牙1本。トウマが頭を輪切りにしたので切り離されて残ったようだ。

「うえ~。この毒の牙残ってましたけど、どうします?」

「毒が漏れ出ないように封をして持ち帰りましょう。高く売れるかもしれませんよ」
「トウマ、こういう素材運は持ってるかもね?」

 霧散した蛇の胴体があった場所には沢山の魔石・小が落ちていた。ざっとみて30個ほどある。おそらく蛇に食べられたモンスターのものだろう。

 セキトモが呼ぶ。

「こっちに鱗も落ちてるよ!
 あ、あっちにも。僕たちが吹き飛ばした部分かな?」

 蛇の大きい六角形の鱗が3枚落ちていたようだ。小さい盾か胸当てに出来そうな大きさだ。

「この鱗、堅くて軽いぞ、少ししなるし。
 いいモンスター素材かも? よく糸で切れたな」

 イズハは糸を回収してきたが斬り落とした蛇の尻尾側については何も言わない。顔がニヤけているし、遠目に見ても分かる大きさだ。
 皆がチラ、チラ見ながらもまずは付近の戦利品の捜索と回収を優先している。

「もうこの辺に回収できる素材は落ちてないようですね。
 それでは最後の大物を回収しましょうか?」

「「待ってました!」」

 一同は蛇の尻尾側の皮が落ちている所に行った。
 蛇は思った以上に長かった。残っていた巨大な蛇の皮の長さは5m以上ありそうだ。ぐるっと一周して繋がっている肉が抜かれた状態の皮を皆で眺める。

「かなり、いい状態じゃない?」
「こんな大きさで残るなんて・・・。高く売れそうですね」
「これは凄いぞ!
 傷が全く入っていないし、鱗も大量についている状態じゃないか?
 さっき拾った鱗が霞むなぁ~」

「この皮、潜って行けますよー」

 トウマとイズハは空いた穴から皮の中へとモソモソと潜って行く。人一人くらい余裕で潜れるようだ。

「よく潜る気になったわね・・・」

「あたっ?! ここ何かありますよ」
「何っすかね? これ堅いっすよ」

 トウマたちが蛇の皮の中から持って出たのは蛇の骨だった。背骨と思われる骨を中心に左右に弓のように繋がっている肋骨のような骨だ。

「これ結構珍しいものじゃない? 一部とはいえ内部の骨まで再現してるって」

 蛇の皮をバンが折り畳むと中の骨が折れる可能性があるのでまたトウマとイズハが潜って残っている骨を取り出した。骨は全部で3つあった。

 巨大な蛇皮も貴重そうなのでバンが無理やり折りたたもうとするのを皆が慌てて止める。
 宿場町がすぐそこにあるんだから折りたたむなんて勿体ないという話だ。
 いつもの癖みたいなものだったらしく、バンも納得した。

「折り目がつかないように軽く三つ折りくらいにして皆で運ぼうか?
 強く折り過ぎるとついてる鱗が落ちちゃうかもしれないし」

 周囲のモンスター対策でイズハだけが運ぶのを免除された。バンの肩には紐で縛った弓のような骨が3つ乗っている。

 宿場町に戻ると門番の衛兵から、中に入るとすれ違う全ての人から注目を浴びる。
 ギルドに入ったら入ったで周囲がざわつく。

 ギルドのマスターと思われるカウンターにいる若いお兄さんに声をかけられた。

「こりゃ、どえらいもん持ってきたなー。ははは」

 モンスター素材の査定に時間がかかると言われしばらく待たされることになった。

【巨大毒牙蛇討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 50万エーペル

【素材】
 巨大毒牙蛇の皮 1枚 100万エーペル
 巨大毒牙蛇の毒牙 1本 30万エーペル
 巨大毒牙蛇の骨 3組 60万エーペル
 巨大毒牙蛇の鱗 3枚 6万エーペル
 棘毛虫の棘 34本 3万4千エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・中 1個 8万エーペル(不純物あり)
 魔石・小 94個 47万エーペル(今まで換金していなかった分含む)

 合計 304万4千エーペル。

 難易度Cのクエストだったのに報酬がどえらい額になっていた。骨は珍しい物だが大きい動物の骨としての査定にとどまった。蛇の皮に関しては状態が良いので他に持って行けばもっと高価で売れる可能性があるらしい。だが、ここのギルドで出せるのはこれが限界という話だった。
 持っていても邪魔なだけなので提示された額で引き取って貰うことにした。

 分け前は一人50万エーペルずつ。残りは道具購入で少なくなったパーティー管理費に回した。

「討伐報酬も高かったけど、素材報酬が凄かったですね?」
「総額は東大陸の難易度Bで貰った報酬を軽く超えちゃってるよな?
 素材を甘くみちゃいけないね」
「50万はデカいっす!」

 イズハが一番喜んでいたかもしれない。




※この内容は個人小説でありフィクションです。