スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第57話 森の猿(前)


翌日-----。

 スレーム・ガングの5人は宿場町のギルドに来ている。

「しばらくここを拠点にするって言ったけどさ。
 この辺りだともう近くの森のクエストしかないのよね」

「遠出するくらいならメルクベルに向かったほうがいいでしょう。
 このクエストで終わりですね」

「え? これで終わり? 昨日と合わせてやるクエスト2つだけですか?」

「これ終わらせたらメルクベルに行こうって話よ。
 (ここスイーツ店少ないし・・・)」

 最後にロッカの本音が小声で聞こえたんだが。

 挑むクエストは『爪猿5体討伐』難易度Bだ。爪猿は大型で高さは大人の人間くらいのようだ。
 森には多くの猿が生息している。その中でモンスターである5体の爪猿たちがボスを気取っているらしい。森に入り込むと爪猿たちが嬉々として襲って来るようだ。

「普通ボス猿って1頭じゃないんですか?
 この情報だとモンスターなのに野生の猿たちは襲っていないってことですよね?」

「賢いモンスターかもね。
 ひょっとしたら同種を増やそうとして他の猿に手をかけてないのかもしれないわ」

「放置していると爪猿は増えていくってことか。
 今の5体は共闘関係だろうな。厄介かもしれないぞ、難易度もBだし」

「今回は木の上に登ると逆に不利になりそうっすね。猿には勝てる気がしないっす」

「う~ん。複数同時に相手するのはキツそうね。
 ちょうどこっちも五人いるから1対1に持って行くのはどうかな?」

 複数人で1体ずつ倒していくのが安全策だろう。だが、モンスターが共闘しているとなるとそう上手くはいかない。
 ロッカ、バンは1対1で勝てるだろう。トウマ、セキトモ、イズハも簡単には負けないはずだ。
 先に猿を倒した者が援護に回れば何とかなるんじゃ?という話になった。
 とにかくモンスター同士には連携をさせない。これが一番重要なようだ。
 木に登った猿を追う必要はない。飛び移れないような木々の間隔が広いところに誘って地上戦に持ち込む算段だ。

 一同は早めの昼食を済ませて出発し、猿がいる森に到着した。
 しばらく森の中を進むと見かけた野生の猿たちが逃げて行く。
 すると、目の前に三体のモンスター爪猿が現れた。

 ウキー、ウキー、ウキキキ。
 猿同士で何やら話しているようだ。眼は黄色で警戒はしている。

『・・・』

 皆が沈黙したのは現れた爪猿たちが武装していたからだ。

「え~と、あれ何ですか?」

 一体は片腕で木にぶら下がり短剣を持つ猿。
 一体は木の上で下手くそに胸当て装備をしている猿。
 地上にいるのは盾を持ってブンブン振り回している猿だ。

 爪猿という割に爪は長くなかった。鋭利なのか、硬くて掴む力が凄いのかのどちらかだろう。猿同士の間隔は空いているので1対1には持っていけそうである。前方三方向にいるという感じだ。

「確か森に入ると襲われるという情報でしたけど死者が出たという情報ではありませんでしたね。追い剥ぎでしょうか?」

「残る二体は多分背後に回ってると思うわ、気をつけて。
 右の短剣を持ってる猿は私が相手する!」
「自分が左の木の上のやつの相手するっすよ」
「じゃ、俺が真ん中の盾持ったやつですね。あいつ盾の使い方間違ってない?
 それもあり?」

「では私とセキトモさんで残る二体の相手をします」

『了解!』

 トウマ、ロッカ、イズハは同時に標的の猿に向かって走り出した。

 最初に猿と対峙したのはロッカだ。
 ロッカは片側の短剣を抜き、飛んで猿に斬りかかる!
 驚いたことに猿がロッカの攻撃を持っていた短剣で弾いた。

「うそ?!」

 猿はぶら下がっていた木から降りると尻尾をフリフリしながらおもいっきりニカッと歯を見せた。眼の色は赤に変わっている。

 ウキキキ!

「何嬉しそうな顔してんのよ! 気持ち悪いわね」

 次に猿と対峙したのはトウマだ。盾をブンブン振り回す猿に近づけずにいる。

「だから、盾の使い方間違ってるって!」

 イズハは走り込んだものの木の近辺に留まり木の上の猿を見上げている。
 猿の注意を引き付けつつ思案していた。

 木の上で戦うのはさすがにキツいっすね。
 今、気配消すと他の人の所に行ってしまうかもしれない。
 どうにかして下に誘き寄せたいっす。

 バンとセキトモのいる後方からも爪猿が来たようだ。

 一体は斧を持っている。
 もう一体は石を一杯に詰め込んだ袋を引きずってやって来た。

「バン。あの袋に詰めた石、絶対投げてくるよね?」

「でしょうね。任せても宜しいでしょうか?」

「おう。あいつの相手は大盾を持つ僕が適任だろう。
 他のやつより太ってるというか、見た感じ動きも鈍そうだし」

「斧のほうの猿は私が引き受けます」
「頼んだ」

 セキトモが予想した通り猿が袋から石を取り出し投げつけてきた。セキトモは大盾でそれを防ぐ。

「器用なやつだな。強烈な投石だけど僕には効かないよ!」

 バンは斧を振りかぶった猿の攻撃をかわしつつ反撃の機会をうかがっている。まだ腰にある三刃爪は取り出していない。

 想定外はあったが当初の予定通り全員1対1には持ち込めたようだ。

 一番先に決着をつけたのはロッカだ。
 少しの攻防を経てロッカは短剣を納め面倒くさそうに立ち止まる。突然動きを止めたロッカを警戒してか、猿も止まってロッカを注視している。

「追っかけ回すのも面倒だからね。さっさと終わらせてあげるわ」

 ロッカが一息ついて短剣を両方抜くと短剣の薄白い輝きが炎のように揺らめいた。

「ウキ?!」

 何かを感じたのか猿はロッカから逃げようとした。が遅かった。
 次の瞬間には猿の全身が斬り刻まれ猿が霧散していく・・・。

「今のはブースト3倍よ。ってもう消えちゃったか」

 ロッカは短剣を鞘に納め、魔石・中を回収。猿が持っていた短剣を拾って見る。

「抗魔玉は着いてないようね。何よこれボロボロじゃない。これは要らないわ」

 ロッカはボロボロの短剣をポイと捨てた。

「さてと、他の皆はどうなってるかな?」

 ロッカが辺りを見渡すと一人だけまだ戦闘していない人物を見つける。イズハだ。

「何か猿に仕掛けようとしてるみたいね? 面白そうだから見せて貰おっ」

 イズハは刺突剛糸と短剣の抗魔玉を取り外している。木の上の猿を注視しながら後ろでこっそり糸を10mくらい引き出した。
 糸の中間くらいで直径1mくらいの輪を作る。猿には糸が見えていないだろう。
 イズハは少し木から離れた位置まで猿の注意を引きながら移動した。
 その後、少し前に出て猿の警戒心を煽る。その間に背後の地面に糸の輪を設置。

 罠の設置完了っす。
 あとは猿の気を引いてここに誘き寄せるだけっす。

 イズハは抗魔玉のついていない短剣をしっかり猿に見せつけた。
 そして仕掛けた糸の輪の中心にうっかり短剣を落とす。もちろんうっかりはフリだ。イズハは逃げるように近くの木に登った。

 どうかな?
 これであの猿、釣れないっすかね?

 イズハとの距離が空いたことで猿が木から降りて来た。誘い出し成功だ。
 猿はイズハが落とした短剣を拾おうと手を出した。と同時にイズハが木から飛び降り、木を支点として糸を引っ張る! 仕掛けた糸が浮き上がり猿の右腕を縛り上げた。何が起きたか分からない猿は右腕が縛られたことに悶える。

「その腕貰ったっすよ!」

”カチッ”

 抗魔玉の力が糸に伝わり猿の右腕が切断された。

「あとは仕上げっす」

 気配を消したイズハは絶叫している猿の背後に回った。首元に思いっきりクナイを突き刺す。

「多少皮膚が硬くても体重乗せれば刺さるもんっすよ」

 猿が霧散していく・・・。

 イズハは落ちた魔石・中と自分の短剣を回収する。猿が着けていた胸当ても落ちていたがいかにもボロそうなので拾わない。

「さて、糸回収っすね」

 イズハの元にロッカが歩いてやって来た。

「やるじゃん、イズハ。糸使いこなしてるわね」

「近接戦でやってみたかったっすけどね。
 残念ながら猿が木から降りて来なかったっす」

 今回、糸を使う際にイズハは始点となるクナイをどこにも刺していないのだ。武器の説明でクナイは投げたり刺したりして使う武器だと思い込んでいた。
 イズハはクナイを持ったまま糸だけを絡めることが出来ることに気づいたのだ。
 腕を出してくるならその場で糸の輪を通しクナイを引いて切断するつもりだった。
 輪投げのように首に引っかけてもよかった。
 縄跳びのように糸を敵の背後に回して引くのもありだ。
 無駄に糸を伸ばさない分、回収も楽にできる。

 この気づきはイズハが対モンスターの戦闘力を格段に上げたことを意味していた。




※この内容は個人小説でありフィクションです。