スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第58話 森の猿(後)


 バンは斧を持った爪猿と対峙している。猿が振り下ろした斧が木に深く刺さり取れなくなった隙をバンは見逃さなかった。バンは斧を持つ猿の右腕を三刃爪で力強く切断した! 猿の腕が三刃の間で2枚の輪切りになって散る。

「ウギギッ! キー!」

 怒り狂った猿の攻撃をバンはかわしたが、間髪入れずに飛んで来た猿の尻尾の薙ぎ払いで吹き飛ばされた。

 バンはすぐに立ち上がった。

「尻尾でくるとは考えていませんでした。油断していたようです。
 それはもう私には通用しませんよ!」

 明らかにバンは怒っていた。油断した自分に。
 バンが三刃爪を交差させると刃の薄白い輝きが炎のようにゆらめき出した。
 そこからバンによる縦横無尽の乱舞が始まった。猿が腕で攻撃すれば腕を、尻尾で攻撃すれば尻尾を、近づくもの全てを斬り刻む。攻撃する手段を失くした猿が跪くがお構い無しだ。猿の全身が斬り刻まれ霧散していった・・・。

「ハア、ハア・・・。少々やり過ぎたようですね」

 ロッカとイズハが離れた所でその様子を見ていた。

「バンを怒らせるとはね~、ご愁傷様」
「何かヤバいものを見た気がするっす・・・」

 バンがセキトモの援護に回ろうとするのをロッカが呼び止めて手招きした。

「援護に回らなくてよいのですか?」
「この程度なら大丈夫よ。経験は大事でしょ、私らは見学で」
「危なくなったら助けに入りますからね」

 トウマは相変わらず盾を振り回す猿に近づけずにいる。

「もう! いつまで振り回すんだよ!」

 セキトモは石を投げる爪猿に少しずつ近づいている。もうすぐ猿の投げる石が無くなりそうだ。

”バキッ!”

 突然、猿が握りしめた石が砕ける。

「なんて握力だ。爪? 握力猿の間違いじゃないか?」

 猿は砕けた石をそのまま散弾のように投げつけた。

”ガガガッ!”

「くっ! 今のを受け流すのは無理だ。何発も食らうと盾がもたない」

 セキトモが次の石の散弾を大盾で受け止めたときだった。

「ウキ?!」

 猿の投げる石が尽きたようだ。
 セキトモはグレイブを抜いた。

「ふ~、ようやく終わったか。次は僕の番だよ。さあ、来い!」

 爪を立てて飛び掛かってくる猿の腹にセキトモの重撃飛槍が炸裂した。猿の飛び掛かる勢いも利用したカウンターの一撃! 悲痛な叫びと共に腹が爆散した猿が霧散していく・・・。

「時間かかったけど何とかなったな。他の皆は?」

 セキトモが振り返るとロッカとバン、イズハが見ていた。
 ロッカがニッコリと笑って親指を立てる。

「あとはトウマだけよ! セキトモもこっち来なよ」

「聞こえてますよ! あとは俺だけなんですね? この猿っ!」

 トウマは剣を抜いて盾を持つ猿に攻撃を始めている。

”ガン!”

「器用な猿だな、しっかり盾で受け止めるし!
 その使い方は間違ってないけどさ!」

 ロッカが声をかける。

「トウマ、セキトモとの模擬戦だと思ってやれば?」

 模擬戦?
 なるほど、セキトモさんとの模擬戦か。
 ・・・違いはこの猿が盾を右手に持っていることくらいか。
 いつもと逆だな、いけるか?

 トウマは盾を構えた猿に突っ込んだ。
 左足を前に踏み出し、左から右へと横一文字に猿が持つ盾へと斬りかかる。が、なぜか手首を柔らかくしたまま盾に弾かれないような弱い当たりで振り抜いた。
 次の瞬間トウマは前に出していた左足を軸にして右回転し、猿の横へ流れるように身体を運んだ。そのまま猿の持つ盾を陰にして猿の背後に移動する。
 そして裏拳のように剣を振るった!

”ズバン!”

 尻尾と共に猿の背中の一部が斬れる。

”ウギャー!”

 悶え苦しむ猿。

「こっちだと振り向くより早く剣のほうが当たっちゃうな。
 当て勘になるからしっかり狙えないや」

 ロッカがセキトモを見て言う。

「何あれ?」

「多分、模擬戦のときトウマが突然僕の背中側から攻撃してきてたやつだと思う。
 盾に当たったかと思ったら見失うんだよ。ああやってたのか。
 しっかり相手の視界が盾で潰れる高さで剣振ってたな」

 突然トウマが俊足になったわけではない。
 通常の戦闘は盾で受けたあと、反撃するために盾を持ち手側に自然に動かすだろう。弱い当たりなら尚更だ。相手は距離が離れているか体勢を崩していると考えて反撃に出る。その反撃するために動かした盾に隠れて背後に回るトウマの動きは追えないのだ。
 カラクリさえ分かってしまえば対処可能なのだが初見では難しいだろう。

「とどめだ!」

 トウマは悶えていた猿が振り向いたところで頭から縦に一刀両断した!
 猿が霧散していく・・。

 皆がトウマの元に集まった。

「お見事っす!」
「トウマやるじゃない!」
「凄いです!」
「あれ、僕にやってたやつだろ?」
「あ、分かりました? もうセキトモさんには通じないかもですね。
 大盾持ったセキトモさんを攻撃するために考えたやつだったのにな~」

「はは。そうかもな。
 足元を見てれば見失うことはないし、盾と一緒に動いてるって分かれば居場所教えているようなもんだ。そのまま背後に回る動きと一緒に向きを変えてもいい。
 僕なら盾を前につき出して動きを止めるかな?
 そこに居るわけだし次は対処可能だよ」

「やっぱり終わってたか・・・」

「初見のモンスター相手になら十分使えるだろ?」
「盾持ってるモンスターなんてそうそういないですよ~。
 あれはセキトモさん専用だったんです」

「普通、僕専用に技開発するものか? 僕、モンスターじゃないのに・・・」
「大盾のモンスター」
「おい」
「まー、何が役に立つか分からないものですね。あはは」

 もしかしたらまた使うことがあるかもしれない。
 セキトモ対策の技と言うのもなんだよね? ってことで、
 悩んだあげく、技名は『ブラインドスラッシュ』にした。

 それぞれが猿から回収した魔石は全て魔石・中だった。

「このクエストって難易度Bだったわよね? なんか手応えなかったわね」

「爪猿と呼ばれたくらいですからね。
 爪で攻撃してくるものかと思っていましたが武器を手にしたことで本来の力を発揮できていなかったのでしょう。共闘もさせませんでしたし」

「武器使ってたのロッカとバンの相手だけだったけどな。
 短剣と斧、しかもボロかったし、僕の相手した猿なんて石投げてきたし。
 でも掴んだ石は砕いてたか、力は相当あったと思う」

「自分が相手した猿は短剣に興味示して罠にかかったっすよ」
「へー、そうなんだ。俺の相手した猿は盾持ってたしなぁ~」

 実際、普通に共闘されて爪で襲い掛かかられていたら大苦戦したのは間違いない。短いが鋭い爪で掴まれたら肉に突き刺さる。握り絞められようものなら骨が粉砕されていただろう。

「結局、あいつらバカだったってことね」

 ロッカの一言で締めくくられた。

 しばらくすると、周囲に野生の猿が集まって来た。

「おいおい。野生の猿まで相手にしなきゃならないのか?」

 すると猿たちが一か所に果実やら木の実やらを次々に置いて去って行く。

「どうやら猿たちからのお礼みたいですね」
「猿たちから報酬貰っちゃいましたね。食べられそうにないやつもあるけど」

 お礼の果実は帰りに支障がない程度に貰い受けた。

 森を出たところでロッカが森を振り返って言う。

「もっとずっと森の奥のほうに行けばヤバいのがいる気がするけど・・・。
 行かなくて正解かもね、勘だけど」

「何か怖いこと言ってるし」

 ロッカの勘は当たっていた。
 森の最奥、火山の山脈があるところまでは行かないが山々に囲まれた美しい大地。
 そこには見たことがない大きな果実を実らせている1本の大樹が生えている。その大樹近くには崩れた遺跡がある。その遺跡を根城とした恐ろしい巨大猿のモンスターがいるのだ。
 今はまだ誰も知るすべが無い。
 この巨大猿は縄張りに侵入、発生したモンスターを全て一掃している。服従すら許さない。
 トウマたちが倒した爪猿たちは何がいるのか知らないまでも森の最奥には近づこうとはしなかった。野生の勘だったのかもしれない。
 いつの日か人がこの森の最奥に足を踏み入れることがあれば、巨大猿のモンスターが牙をむくことになるだろう。

 トウマたちは帰りに遭遇したスライムを数匹倒して宿場町に戻った。
 ギルドに寄り成果報告と換金。

【爪猿5体討伐依頼 難易度B】
 討伐報酬 100万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・中 5個 25万エーペル
 魔石・小 4個 2万エーペル

 合計 127万エーペル。
 分け前は一人20万エーペルずつで残りはパーティー管理費へと回す。

 猿に貰った果実をムシャムシャ食べながらロッカは言う。

「明日はいよいよメルクベルへ向けて出発よ!」

 全然聞き取れなかったがそう言ったのだろう。




※この内容は個人小説でありフィクションです。