スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第59話 効果の違い


 スレーム・ガングの5人は早朝に宿場町を出発した。今は都市メルクベルを目指し街道を北上している。
 馬車に三人くらい乗っても馬次郎は平気そうみたいなので御者と荷台に二人、歩きが二人といった感じで交代しながら進んでいる。途中モンスターと遭遇した場合に備えて全員が疲れた状態にならないようにしようということだ。
 最重量となるトウマとセキトモの組み合わせで馬車に乗るのは避けて、今は御者がバンでトウマとロッカが歩いている。

「メルクベルまで1日中歩いたとしても3日はかかるんですよね?」

「そうですね。
 途中にオドブレイクが2カ所あるのでそこで休みながら無理なく進みましょう」

「オドブレイクに着かなかったら街道で夜を明かすことになるわ」

「俺は一回くらい野宿経験してもいいかな~」

「そのときはバンと私が荷台で寝るからね。
 あんたたちは街道脇にでもテント張って寝なさいよ。
 もちろん交代で見張り役もしてよね」
「えー、それは嫌だな」

 バンが馬車を止めるとセキトモが荷台から降りる。

「トウマ交代しよう」

 バンも交代する。

「今度は私が歩きますね。ロッカも荷台に乗って下さい。
 イズハさん、御者お願いします」
「了解っす」

 見かけたスライムを討伐しつつ進み、日が落ちる前にオドブレイクに到着した。

 いつものようにテントを張る準備をしているときだった。
 急ぎ早に馬車がやって来た。余程急がせたのか馬は随分疲弊しているようだ。
 馬車から二人の負傷者を含めた五人の討伐者たちが降りて来た。一人女がいるようだが他はガタイのいい男たちだ。
 負傷者二人を空き地に寝かせている。

「誰かポーションを持ってる者はいないか? 重傷者がいるんだ!」

 入口にいる衛兵二人は助力するか迷っているようだ。

 一緒にやって来た女が男を押しのけて言う。

「さっきは途中で力が切れてしまいましたが、私の癒しのロッドで十分ですわ。
 どいて!」

「ハッ! ローザ様!」

 ローザと呼ばれた女が負傷者に治癒のロッドをかざし治療を始めた。ローザは気の強い小娘といった感じだ。バンよりは背が高い。

 トウマたちも何事かと思い集まっていた。
 バンがもう一人の負傷者に駆け寄る。

「こちらの方のほうが傷が酷そうです。こちらは私にお任せ下さい」
「あ、あなたはいつぞやの」

 ローザが治癒を始めたバンを驚いたように見ている。

「バン様? 何故このようなところに?」

「ああ、あなたたちでしたか。以前お会いしたことがありますね。
 話はあとにしましょう。今は負傷者の治療を優先して下さい」
「わ、分かりましたわ」

 一通り負傷者の治療を終え、落ち着いたところで話を聞くことになった。

 この者たちは『ロガンズ』と言う討伐者パーティーらしい。
 正式名は『ローザ・ガーディアンズ』らしいのだが名が長いということで省略することにしたとか。ローザとローザを護衛する役目の者で結成されているようだ。

 ローザはどこぞの行商関連のお嬢様らしい。護衛のリーダーが先ほど助けを求めていたモスバルというツルピカ頭の髭面の男だ。他の短髪の男たちはザイル、パーソン、ゴルで治療を受けていたのがザイルとパーソン。ゴルは一回り大きい太っちょだが無口なようだ。装備としてはローザ以外は全員剣と盾を持っている。ローザは鞭と治癒のロッドを所持しているようで補助役といったところか。

 ロガンズは都市ラギアサタに向かっている途中だったらしい。息抜きでモンスターを討伐していたら牙犬の群れに遭遇したという。三体は倒したそうだが負傷者が出た為、街道に逃げて急ぎこのオドブレイクにやって来たようだ。

 護衛リーダーのモスバルが言う。

「またしてもバン様に助けられるとは、あなたは我々にとっての女神様ですな」

 ロガンズの男どもがうんうんと頷く。

「そんなことは・・・」

 どうやら以前にもバンが治癒のロッドで治療したことがあるらしい。

 ロッカがドヤ顔で言う。

「あんた達、運が良かったわね! バンがここにいるときにやって来るなんて」

 ローザが言う。

「バン様の治癒のロッドを拝見してから私も苦労してようやく手に入れましたのに。
 何故ですの? バン様と私では治癒の効果が全く違いますわ」

 バンが治療しなければ負傷者は命を落とさないまでも傷を残すことになったかもしれない。治癒の効果が違うのは当然だ。
 バンはブースト3倍で治療していたのだ。相乗効果と言うべきか通常の治癒を3回行うのとでは効果は雲泥の差だ。

「物は同じよ。違いは使用者の能力、バンだからできるのよ」

 抗魔玉の力を解放できる者が使えば効果が上がるのだが、そこは言わないようだ。

「そんな・・・私にはその能力がないと・・・」

「ローザ様。
 ポーションが切れたときに我々を治療して頂けるだけでも有難いことです。
 お気を落とさないで下さい」

 ローザのあまりにもの落胆ぶりを見かねてバンは声をかける。

「教えて出来るものではないですがローザさん次第で効果を高められる可能性はありますよ」

「ほ、本当ですの?」

 バンはローザに抗魔玉の力の解放について話す。
 ロッカは呆れた顔でバンを見ている。

「そんなことが・・・、抗魔玉の力とは深いものなのですね。
 私もバン様のように出来るようになりたいですわ」

 ロッカが口をはさむ。

「本来隠している情報なのよ。
 あまり触れ回らないでよね、できる人少ないんだから」
「もちろん承知致しましたわ。
 これは他の討伐者たちの優位に立てる特権とも言える情報です。
 皆さんも宜しいですね?」

『ハッ!』

「知ったところで簡単にできるもんじゃないんだけどね!」
「私はやると決めたら必ずやり遂げますわ!」

 バチバチと睨み合うロッカとローザを見てバンは苦笑いをしている。

 ローザは早速抗魔玉の力の解放を試そうとした。
 が、すぐに治癒を施す人がいないことに気づいてガッカリする。

 仕方ないなといった感じでロッカが短剣を抜き、刀身の薄白い輝きが炎のようにゆらめくのを見せた。

「まずは力の解放が見えやすい武器で試すことね」
「か、感謝しますわ。モスバル、馬車に短剣がありましたよね? 持って来て」

 ロガンズも今日はこのオドブレイクで休んで行くことにしたようだ。

 トウマ、セキトモ、イズハはテントの設置を終え掲示板を見ている。

「今までのオドブレイクには掲示板なかったですよね?」
「ギルドのクエストが貼ってあるみたいっすね? 右のほうが多いっすけど」
「僕も初めて見るな。中央ではこれが普通なのかな?」

 ロガンズの二人、治療して貰っていたザイルとパーソンが声をかけてきた。

「さっきは助かったよ。バン様はやはり女神様だ。
 前はお名前を聞いただけですぐに去ってしまわれたし、感謝しかないよ」
「パーティーに女神様がいるなんていいよね?
 うちの我がままお嬢とは違うようだし」

 バンさんが女神様?
 力の強さを知らないからそう言えるんだよ、言うなら力の神かな?
 それにうちにも我がままな娘はいますよ。

 ザイルが言う。

「ああ、この掲示版かい?
 これは街道周辺5km以内に出ているクエストが貼ってあるんだ。
 道中に討伐して貰う為だろう、ギルドに近いクエストは載っていないと思うよ」
「そうなんだ」
「オドブレイクから見て街道の右側と左側で分けて貼ってあるんだ。
 君たちはメルクベルに向かうようだから右側のクエストなら行けるはずだよ。
 左側が少ないのはギルドに近いからだろうな」

 そこへロッカがやって来た。

「お、あるじゃん。『牙犬の群れ討伐』のクエスト。
 場所も聞いた話と合ってるみたいね。難易度はCか、数が多いってことかな?」
「ホントだ。俺たちが遭遇した牙犬たちはこれだったのか」

「ローザ! ちょっと来て」

 ロッカはローザを呼んだ。

「なんですの? ロッカ」

 どうやらロッカとローザは同じ歳だということが分かって少し打ち解けたようだ。ローザが熱心に抗魔玉の力の解放を試す様子を見ていて何か感じるものもあったのかもしれない。

 ローザは真面目だった。少々我がままなところがあるようだが護衛の者たちからも慕われている理由の一つである。

「あんたたちが遭遇したっていう牙犬の群れだけどクエストが出てるわ。
 三体倒したって聞いたけど、これ私たちで貰っていい?」
「構いませんわ。
 目的地と方向が違いますし、引き返して討伐するつもりはありません」

「じゃ、私たちがメルクベルに向かうついでに討伐しておくわ」
「あの牙犬たちを許した訳ではありませんので助かりますわ。頼みます」
「OK~。任せといて」

 この日の夕食はバンの治療と情報のお礼と言ってロガンズが奢ってくれることになった。
 ここの倉庫は地下室が設けてあり、見た目より多くの物資が置いてあるようだ。保存食以外で入ったばかりの肉も買えたようでそれも振舞って貰えた。
 他の知らない討伐者連中が羨ましそうに見ていたが分けてあげる義理はない。

 当然ながら皆で完食だ!




※この内容は個人小説でありフィクションです。