スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第60話 才能の差なのだろうか


早朝-----。

 トウマたちが出発の準備をしていると何やらロガンズの男どもが騒いでいる声が聞こえた。

「おー。さすがローザ様でございます!」

 皆が様子を見に行くとローザがかなり疲弊しているのが見てとれた。

 どうしたんだろ?

 どうやらローザは一晩中寝ずに抗魔玉の力の解放に挑戦し続けていたようだ。そしてローザが力の解放に成功したと聞く。

「マジ?! ウソでしょ?
 俺たち何回挑戦しても出来なかったのに」

「ウソじゃありませんわよ。トウマさん」

 ロッカとバンは顔を見合わせて驚いた。

「ローザ、一息ついたら私たちにも見せて貰える?」
「はい。どうやらかなり集中力を使うようですので朝食後でお願いしますわ」

「バン。なんかホントっぽいね?」
「そのようですね。一晩でたどり着くなんて凄いことですよ」

 食後に再びローザの元に集まった。

 ローザは身体の力を抜いた自然体といった感じで集中すると抗魔玉を装着した短剣を鞘からゆっくり抜いた。すると剣幅を少し増量した感じで薄白い輝きが炎のように揺らめく。
が、すぐに解けて通常に戻った。ほんの数秒だった。

「ふー。どうでしょうか? 今の私にはこれが精一杯のようです」

「確かに解放してたわ、ローザやるじゃない。
 今のだとブースト1.5倍ってところね」

「万全ならもう少し長く解放できそうですね。
 目安としてですが今のブースト1.5倍で治癒のロッドを使うなら1回で抗魔玉の力を1分半使うと思って下さい。ブーストを2分は維持できるようになっていたほうが確実だと思います。
 今後、ローザさんが力をどこまで高められるかでも変わってきますので考えて使うようにして下さいね」

「バン様がおっしゃっていた私次第ということがよく分かりましたわ。
 おかげでコツのようなものは掴めました。
 あとは研鑽あるのみですわね。ありがとうございます」

「ちなみに昨日、私が見せたのはブースト2倍だったけどバンが治療で使ってたブースト3倍はこれくらいよ」

 そう言うとロッカは静かに一息し、短剣を取り出してブースト3倍を見せた。それを見たローザの表情は驚きに満ちていた。ローザは抗魔玉の力を解放できたことによりその凄さが分かったのだろう。

「そんなに・・・」
「解放できるだけでも凄いことだし、ブースト2倍出せれば大したもんなのよ。
 頑張りな!」
「わ、分かりましたわ。・・・ロッカ、あなたも凄いのね」

 ドヤ顔のロッカ。

「えへへー、当然よ!」

「ローザさん。無理はしないようにして下さいね。
 肝心なときに使えない状態では意味がありません」

 ローザは目がメラメラと燃えた感じで頷いた。ロッカにブースト2倍、3倍を見せて貰ったことでイメージはできるのだ。少なくともブースト2倍まではそう遠くないだろう。

 セキトモがトウマを見て言う。

「僕ら何か一瞬で抜かれたって感じだな?
 やはり才能の差なのだろうか? そうは思いたくないけど」
「うっ、それは言わないでおきましょうよ」
「トウマは解放したことあるんだから出来るはずなんだけどな。わはは」

 イズハは聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。

「自分も挑戦してみるっすかね? 才能あるといいっすけど」

 その後、ロガンズは目的の都市ラギアサタ方面に向かって出発して行った。ローザの去り際のセリフは「次会う時は私もっと凄くなっていますわよ」だった。

「さて、私たちもメルクベルに向かって出発よ。
 あ、途中、牙犬の群れ討伐も忘れずにね!」

 スレーム・ガングの5人もオドブレイクを出発してしばらく経ち、今はバンとセキトモが歩いている。トウマは馬車の荷台から飛び降りて来て二人に声をかけた。

「まだロッカは寝てるっぽいですよ。
 もうそろそろクエストの場所ですよね?
 ちょっと気になったんですけど牙犬の群れってどうやってできたんですかね?」

「ボス犬みたいなのはいなかったって言ってたから共闘だろうな。
 そう言われると僕も気になる」

「スライムの強制分裂は別として複製体は比較的小型のモンスターが作るようなので複製体ではないでしょう。こちらのスライムは賢いという話はしていますよね?
 すぐにはモンスター化せずに質量を増やすことを優先するみたいです」

「あ、だからこっちは大きいスライムが多いのか」

「そうです。そこでスライム同士が遭遇した場合、融合するか、対峙するか、共闘するか。まあ、無関心というのもあるようですが、共闘だと同じ生き物に合わせて擬態する感じではないでしょうか?
 もちろん今まで見てきたようにスライムのままで共闘というのもあります。
 それはまだ自身の質量を増やしたいと思っているのでしょう」

「なるほどな。
 だから同種のモンスターが集まっているように見えるのか。
 いや待てよ。でも擬態元となる同じ生き物が周囲にそんなにいるものなのか?」

「言われてみれば野犬の集団をスライムの集団が襲うってこと考えづらいですもんね。襲われた生き物だって逃げるだろうし。
 同種の生き物を取り込んだスライムが集まるのも無理がありますよね?」

「それについては共闘するスライム同士が取り込んだ生き物の情報を交換すると言われています。その考えだとスライムの集団が突然同じモンスター集団になるのはありえますよね?」

「そういうことか。何か一つ謎が解けた気がするよ」

「交換した生き物の情報が気に入らなければ交渉決裂って感じで違うモンスターになるのかな?」

「どうだろうな?
 スライムの気持ちなんか分からないからな~」

 しばらくしてロッカが馬車の荷台から顔を出しイズハに声をかけた。

「イズハこの辺りで停めて!
 確かこの辺だと思うわ。東側に2kmくらい行った丘の麓って話だったわよね?」

 馬車を停めてロッカ、イズハも馬車から降りた。

「歩いて30分かからないくらいの距離だけどバンとセキトモはこの辺で馬次郎と待ってて。二人は長く歩いてるから疲れもあるでしょ? 私たちで行って来るから」

「私はまだ大丈夫ですよ」
「僕もまだ大丈夫だよ」

「うん、でもね。街道それたら馬次郎連れて行くの難航しそうだし。
 それに、そう遠くないところにモンスターもいるようだわ。
 小物だろうけど見張り役は必要でしょ?」

 馬次郎がチャカチャカ足踏みしたり、物見したりして、そわそわしている。

「そうか、僕も何となく分かってきたよ。
 馬次郎の様子が変なときは近くにモンスターがいるんだな?」
「馬次郎、お前凄い才能持ってるよな~」

「分かりました。そういうことなら。三人とも気をつけて行って下さいね」

「うん。じゃ行って来るねー」

 トウマ、ロッカ、イズハの三人が牙犬の群れ討伐に向かった。

「三人でやるけど役割分担しただけだからね、討伐報酬の分け前は全員で分けるよ」
「もちろんです」
「自分も異議はないっす」

 三人はしばらく丘のほうへ向けて歩き、牙犬の群れがいる付近に到着した。
 周囲は大きな岩が点在していてまだ牙犬に気づかれない距離である。三人は岩陰から牙犬たちを覗き見た。

「牙犬だけじゃないようね、爪犬もチラホラいるようだわ。
 あの群れからローザたちよく逃げ切れたわね?」

 犬種的にはドーベルマン十数匹の黒い群れで大人の腰の高さくらいはありそうな中型のモンスターたちだ。今はウロウロしたり寝転んだりしていて警戒している感じではない。

 集団であの大きさになるまで擬態しなかったってこと?
 スライムはその気になれば草木や石だって食べるって話だからな、あり得なくはないか。
 そもそもスライムが大きくなるまで放置されてるのが問題だよな。
 発生するスライムの数が多いとどうしようもないのだろうか?

「結構、数いますね」
「あの集団がまとまって襲って来たら自分対処できそうにないっす」
「何とか分散させたいわね、こっちは三人だからどのみち多対1になっちゃうけど」

「それだと一人当たり4~5体は相手にするってことですよ?
 均等にくるとは限らないし囲まれたら・・・」

「う~ん。
 あ、ローザたちは負傷者二人かかえた状態で逃げ切れたって言ってたわよね?
 ある程度離れたら追って来ないのかも?」

「縄張りを持つタイプの典型ってことっすかね?」

「イズハ、あんたの才能が活かせるわ。逃げるの得意よね?
 あいつらがどこまで追って来るか実験してみない?」

「自分っすか?
 隠れる所があればそこで気配消して逃げ切れると思うっすけど---」

 イズハは辺りを見渡した。

「そうっすね。この辺りのあちこちにある岩を利用すればいけるかもっす」

「ここ?」




※この内容は個人小説でありフィクションです。